Weekly Report(1/29):年初来の急速な反発にも「息切れ・ピークアウト接近」の兆候が徐々に増加
吉岡 豪麿
この記事の著者
ジーフィット 取締役CAO

国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

マーケット分析

<テクニカル分析判断>   

●短期:依然上振れの可能性を残すも、年初来の急速な反発力には息切れの兆候が増加

●中期:短期から波及の反発にも収束の兆し。「中長期下落トレンド」の再開なるか?

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先週は「寄付148.17:146.64~148.80:終値148.11(前週比▲0.03円の微小な陰線)となり週足では、前週まで続いた3週連続での陽線(うち2週は3円超の大幅な陽線)が漸く収束の兆しを見せた。先週指摘した通り「『反発局面が継続』する可能性は高いが、短期的に顕現化してきた『反発に息切れの兆し』にも留意したい」との見通しに近い展開が示現したと言えよう。また、先週の足型は、昨年11月20日週と同様の『高値圏で出現した“首吊り線”』(上図:グレーの垂直なカプセル)となっており、ここ2週で「(年初来の急速な)反発局面がピークアウト」した可能性が高まったとも言える。

昨年11月下旬以降「強い上値抵抗線に転化していた21週移動平均線」を、2週前にあっさりと終値で上抜けしたことで、年明け以降短期的時間軸から発せられていた「中長期下落トレンドの(一旦の)収束」が確定的となっていた。これに伴い、今週も「今回の反発局面における上値メドを模索(上値トライ)が継続」する可能性は依然として否定できない。ただし、今回の反発局面が短期から顕現化したように、日足(後掲➊)での「息切れの兆候」に続き、既述の通り週足でも下落のサイン(“首吊り線”の出現や“調整波C”開始の兆し:後掲➋ご参照)が見られ始めている

こうした我々の分析(見立て)が正しければ、(ピークアウトの確認後)「昨年末の直近安値(140.24円)を下回り140円を大きく割り込んでゆく」可能性があり、これが(先週ご案内した)「修正した見通し」の結論となる。更なる詳細については、後掲➋をご覧頂きたい。

なお、年初にわずか4日間で5円超を記録した週間レンジは、3週前の3.01円への縮小を経て、2週前に4.00円と再び拡大したものの、先週は2.05円とその振幅を前週から半減。こちらも先週指摘していた通り<基本的には「今後も依然高水準の市場変動率の継続」を想定しているが、昨年11月以降続いている「上下どちらにも大きく振れ易い」展開が徐々に落ち着いてくる可能性>が顕現化している。

以下では『短期・中期・長期の方向性』について各時間軸チャートによるテクニカルな視点を中心にご案内。(今号の分析は2024/01/26のNY市場終値をベースに実施)

<以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数>

➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド」、「52MA & 200MA」、RSIを付記  

短期(1週間~1か月弱)の方向性:依然上振れの可能性残すも、上昇力息切れの兆候は拡大

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「強い上値抵抗線に転化したはずの21MA」は終値で上抜けを継続したことで再度(下値支持へ)逆転

さらに、中期的上値抵抗線となっていたはずの「52MAもあっさりと上抜け」した上に、21MAが上昇に転じたことで「200MAとのゴールデンクロスが再び出来」し、地合いの強さを示唆

ただし、年明け以降の上昇が急速だったことも手伝い、RSIやストキャスティクスの水準や形状にはいつ調整(ピークアウト/反落)が入ってもおかしくない状況が現れ始めている

◆また、昨年11/13(151.92)⇒同12/28(140.24)を11.68円の下降波と捉えて「反発(上値)のメド」を記載したのがチャートのオレンジ表記のもの。取敢えず折に触れて抵抗線(⇒支持線に転化)になってきたのがわかる。これによれば、75%戻しとなる149.00超の水準は(上記のRSIやストキャスティクスの状況と併せて考えれば)相当の上値抑制圧力がかかってくると想定される

>>むしろ、149.00を目前にピークアウトした可能性も急浮上している

>>>想定レンジ=今週:145.95~149.25 、今後1ヶ月:141.90~149.25 =

➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSIを付記 

中期(1か月~半年程度)の方向性:年初来の急速な反発局面に中期でもピークアウトの兆し

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年末年始に52MAで堅固にサポートされた格好で始動した今回の上昇トレンドの「下値の切り上がり」は4週連続に延長。更に、ストキャスティクスの水準/形状も依然として反発継続の可能性を示唆

但し、先週の足型は、昨年11月20日週と同様の『高値圏で出現した“首吊り線”』(上図:グレーの垂直なカプセル)となっており、ここ2週で「(年初来の急速な)反発局面がピークアウト」した可能性が高まりつつある(高値圏で出現した“首吊り線”は下落開始接近のサイン

なお、昨年1/16(127.22)⇒同11/13(151.92)を24.70円の上昇波と捉えて「反落(下値)のメド」を記載したのがチャートのグレー表記のもの。折に触れて支持線(⇒抵抗線に転化)になってきたのがわかる。これによれば、現状が既に25%戻しとなる145.75より高い水準にあるため、あまり参考にならないが「(昨年10月~同11月中旬までかなりもみ合っていた)149円台半ばの水準(➊でもご案内した通り)相当の上値抑制圧力がかかってくると想定される

>>むしろ、現在は上記の水準を前に「既にピークアウトした可能性」すら浮上している

因みに、(我々の分析・見立て通り)現在が上記の24.70円の上昇波に対する調整波だと仮定すると『下落(A)>反発(B)>下落(C)』という3波動構成の『反発(B)』の局面に位置している可能性があり、首尾よくピークアウトを迎えた後には、50.0%戻し(139.57)や61.8%戻し(136.65)に向けて、再び下落トレンドに回帰することになろう

<<エリオット波動理論によれば「下降波(C)は下降波(A)の下値(140.24)を下回る」ことで完成

>>> 今後6か月間の想定レンジ 136.65~150.15 ⇒ 136.65~149.25 =

➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記  

長期(半年超~1年程度)の方向性:超長期上昇トレンドは現下落トレンドの終了確認後に再開

>>>先週の終値が前週と同一水準だったため、月足の状況には全く変化無し

>>>今週の「長期見通し/分析結果」も変化は無いため、解説等は割愛致します

>>> 今後1年間の想定レンジ = 133.50~151.80 ⇒ 133.50~151.50 =

<ファンダメンタルズ分析判断>

□先週のグローバル金融市場は、債券市場・株式市場共に日・米・欧にてマチマチの動き

【米国】週間の変化

◇主な経済指標:「景気関連=予想比上ブレ」も「インフレ指標=鈍化傾向継続」を示唆

米1月総合PMI速報値    :結果52.3(市場予想51.0)

米10ー12月期GDP速報値 :結果+3.3%(市場予想+2.4%)

米12月新築住宅販売件数 :結果 年率66.4万件(市場予想同65.1万件)

>米12月個人消費支出(PCE)価格指数:結果 前年比+2.6%(前月比横ばい。3ヶ月連続で3%下回る)

◇債券利回り上昇:

>10年債利回り:1/19 4.123% ⇒ 1/26 4.137%(前週比+0.015%上昇)

>2年債利回り :1/19 4.385% ⇒ 1/26 4.349%(前週比▲0.036%低下)

=>10年-2年の逆イールドは「▲0.212%へ再びジワリと縮小」

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◆米長短金利跛行の背景:

既述の米景気指標の堅調を受けて、長短問わず全般的に債券利回りは上昇

⇔ただし、インフレ指標は鈍化傾向を維持しており、インフレ再燃警戒は大きく後退(利下げスピード加速の見方増加=短期を中心に債券利回りに低下圧力) 

(中長期債を中心とした)国債の供給拡大に対する(需給悪化)懸念高まる

←1/24実施の5年債の入札が不調 ⇒「今後も懸念が続く」との見通し増加 ⇒米財務省「今週、四半期定例入札の詳細を発表」予定 >>社会保障費や金利負担が増加しているため、入札規模の一段の拡大を発表する可能性が高まっている

◇長期金利上昇も、主要3指数は揃って3週連続上昇:3指数の上昇は過去13週中12週目

>NYダウ:+0.65%高(小幅ながらも最高値を更新中)

>S&P500:+1.05%高(こちらも5日連続を含む終値ベースでの史上最高値更新を見た)

>ナスダック:+0.95%高(1/25には2021年の史上最高値まであと135ポイントまで迫る)

>>ただし、予想PERや債券利回りに対するバリュエーションが急上昇しており、「割高感」が高まる中この上昇速度を懸念する声もかなり増加

【日本】週間の変化

◇債券利回り上昇:

>10年債利回り:1/19 0.665% ⇒ 1/26 0.705%(前週比+0.040%上昇)

⇒1/25には0.745%をつけるなど、年明け以降続いていた金利低下にも反転の兆し

●本邦長期債利回り上昇の背景:

(週前半は以下の要因を中心に利回り低下)

○日銀金融政策決定会合での金融緩和の現状維持決定(フォワードガイダンスの変更なし)

○展望リポートにおける2024年度の消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)見通しの下方修正

>> 前回10月時点の+2.8%から+2.4%へ下方修正

<⇔>但し、2025年度については「同+1.7%から+1.8%へ小幅ながらも上方修正」

○植田日銀総裁による「マイナス金利を解除しても極めて緩和的な環境が続く」とのハト派的発言

但し、1/23の植田総裁の発言「(出口への環境は整っているかとの質問に)確度は高まってきている」をきかっけに、1/24から「早期金融正常化」が改めて意識され10年債利回りが急反発

翌1/25にも「米長期金利上昇」や「日銀マイナス金利解除の思惑」、「低調な新発40年国債入札」等を材料に一時0.750%まで利回りは急上昇

◆主要株価指数は、小幅ながらも揃って3週ぶりに反落:

>TOPIX:前週末比▲0.5%安

>日経平均株価:前週末比▲0.6%安

●(海外株式市場の堅調にも拘らず)株価が反落した背景:

(週初こそ以下の要因を中心に株価は大幅上昇)

○「前週末の米ハイテク株高」・「日銀金融政策決定会合での政策据置観測」・「12月期決算への期待」

②しかし、その後は以下の要因を反映する格好で大きく反落

●「金融政策決定会合での現状維持は市場織込済で売り優勢」・「週前半の米株安、国内長期金利上昇」、1/25こそ「米ハイテク株高」を材料に上昇も、週末は「(前日の)米半導体関連株安を受け利益確定売り優勢」で下落し、週間でも3週ぶりの反落となった

【欧州:ドイツ】週間の変化

◆債券利回り低下:

>10年債利回り:1/19 2.342% ⇒ 1/26 2.299%(前週比▲0.043%低下)

●独長期債利回り低下の背景:

先週のECB理事会で「早期利下げ期待」が強く否定されなかったこと

○声明文では、前回まで記載されていた「 国内インフレ圧力が根強い」の文言が削除され、基調的なインフレの低下傾向が継続との評価が加えられた

○ラガルド総裁は、1/17のダボス会議出席時の自身の発言“利下げ開始はおそらく夏”を維持するか?と問われ“「利下げ議論は時期尚早」が理事会のコンセンサスだった”としながらも、“1/17の発言自体は維持する”と答えた

○ECB理事会後には利下げ期待がやや盛り返し、1/26時点では「4月理事会で利下げ開始」・「7月理事会までに3回以上の利下げ」・「年末までには6回の利下げ実施」が織り込まれている

◇欧州の主要株価指数は、大幅に反発:

>先週4.3%上昇した独DAXを始め、仏CACが史上最高値を更新

>軟弱基調にあった英FTSEも先週は3%近い上昇

◇株価が大幅に反発した背景:

インフレの落ち着きを受けた利下げ期待の再台頭

長引くインフレ高止まりで米日の株価上昇に相対的に出遅れていたこと

一部個別企業の好決算が相次いだこと

□米長期金利上昇・衰えぬリスク選好機運を反映し、対主要6通貨でのUSD指数は4週連続の上昇

>>ただし、主要国で最も長期金利が上昇した日本に対しては週間で横ばい

⇒年初来の急激な展開の反動もあり、一方的な「円安」の動きは着実に沈静化に向かっている

さて、今週は米国だけに限定しても、以下の通り非常に重要なイベントが目白押しです。

・[1/30] 米12月雇用動態調査(求人件数、採用者数など)

・[1/31] 1/30-31開催のFOMCの結果発表

・[2/1] 米1月ISM製造業景況指数の発表

・[2/2] 米1月雇用統計の発表

一方、先週発表された米国の主要な経済指標でも「事前予想比で上ブレの多い堅調な景気関連指標」と既述の12月個人消費支出(PCE)価格指数が示唆した「上昇を懸念する必要が急低下しているインフレ関連指標」の見事な併存が示されていました。

~「インフレと景気の減速は続くものの、景気は“後退”と言えるほどには落ち込まない」~

まさに、現在米国の金融市場を席巻しているこの『ソフトランディング・シナリオ』の蓋然性は極めて高いと考えざるを得ない状況なのかもしれません。 ただ…

Ⅰ.「予想比堅調だが、減速傾向にある景気」 と Ⅱ.「順調に鈍化を続けるインフレ」

かねてより指摘してきましたが、Ⅰ.については➊『急激な金融引締めの累積効果は今後顕現化する可能性が高い』ことを主因に今後想定以上に悪化する恐れがあると我々は考えています。また、Ⅱ.については➋『インフレが鈍化する中で現在の高い政策金利が維持されれば、金融政策の引き締め度合いは一段と強まっていく』ことは確実。現在こうした状況下で米国の実質金利の高止まりを危惧する声も高まっています。我々の記憶が正しければ、こうした認識をFRBはこれまでも繰り返し示してきました。

とすれば、➌現状は『FRBによる一段の引き締めの可能性は殆どない』はずであり、むしろインフレの再燃を危惧し過ぎて利下げが遅れ(≒➋)、ひいては➊の可能性を益々高めることになるかもしれません。

ここで示した➊~➌は、米国金融政策の方向性として当然ながら『USD安要因』となってくるでしょう。

また、先週の米国では今回のFOMCを控えて、米メディアの観測報道は『3月の利下げ余地は依然残されている』との内容が大半だったようです。中でもウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が「インフレの鈍化による実質金利の上昇が米国経済を押し下げる懸念を踏まえ、3月以降の利下げに備える」(≒➋)との記事には目が釘付けになりました。特に、「米景気が急激に悪化する場合(≒➊)は米労働市場に相当の打撃」とした上で、「米国の昨年11月の採用率は足元で既に悪化しており、コロナ禍を除いて、2014年8月以来の水準に低下」と指摘しています。更には「利下げのピッチが想定されているよりも急速となる可能性」にも言及していました。

こうした報道に影響されたのか、いみじくも、先週末の米金利先物市場では以下のようなオッズが示されていました。

「今回、最初の利下げが決定されるのは4/30~5/1のFOMC」との見方が圧倒的

>>市場が織り込む「5/1までに利下げが実施される確率」は約90%と大勢を占める

>>一方で、「3月利下げの確率」も依然として約48%も残存している 

もちろんFRBも欧州中央銀行(ECB)と同様に、市場で出ていた早期利下げ観測を牽制はしてきました。しかしながら、既述➊~➌の背景を踏まえると「向こう数四半期でドルが大幅に上昇する余地は殆どない」との結論に達します。テクニカル分析での結論とも一致するところですが、我々は「中長期下落トレンドは依然として継続している」との判断を維持しています。

お知らせ:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに短期を中心とした見通しについては、GFIT為替アンバサダーでもある安田佐和子氏のレポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。 TRADOM会員の方はサイト内で、是非ご参照下さい

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