Weekly Report(8/4)「Fed高官発言と日銀主な意見を確認し、ドル円の方向感を探る」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は7月28日週に3.63円と、その前の週の2.81円から拡大した。週足では、続落。前週比では0.25円の下落となった。年初来リターンは前週の6.1%安から6.3%安へ小幅に拡大した。米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエルFRB議長の記者会見と、日銀金融政策決定会合後の植田総裁の会見で、ドル円は一段高。米7月ADP全国雇用者数や米Q2実質GDP成長率・速報値、米7月PCE価格指数などもそろって市場予想を上回り、ドル高に拍車をかけた。しかし、米7月雇用統計が弱い内容だったほか、過去2カ月分の非農業部門就労者数(NFP)が未曽有の下方修正となったため、週末にドル売りに急旋回。トランプ大統領が米労働統計局局長の解任を発表したほか、クーグラーFRB理事が8月8日付けで辞任することになり、パウエルFRB議長のレームダックが進むなど、年内の米利下げ観測が強まったことも、ドル売りを後押しした。
  • 7月29~30日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場予想通り金利据え置きを決定。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の会見は、日本や欧州連合(EU)との関税合意を受けてもインフレ警戒は不変で、米労働市場も堅調と述べ、利下げに急がない姿勢を堅持した。しかし、米7月雇用統計が予想外に弱い結果となっただけでなく、過去2カ月分の非農業部門就労者数(NFP)の下方修正が25.8万人と、未曽有の規模に膨らんだ。NY連銀総裁やクリーブランド連銀総裁は、米7月雇用統計での雇用低迷につき「移民の減少」と説明するが、市場は年3回の利下げ予想に傾く。
  • 米7月雇用統計が発表された8月1日は、2つのビッグニュースが市場を震撼させた。1つは、トランプ大統領によるエリカ・マッケンターファー米労働統計局局長の解任だ。2つ目は、クーグラーFRB理事の8月8日付けの辞任発表となる。特に2つ目について言えば、「影のFRB議長」が就任するシナリオが意識される。クーグラー氏の後任はトランプ氏が指名し、米上院で承認される。新たなFRB理事は、次期FRB議長に指名される可能性が取り沙汰されるだけでなく、パウエルFRB議長のレームダック化が進み、FOMC参加者が年内利下げにシフトしかねない。長期的には、米財務省とFRBの連携も、視野に入る。ベッセント財務長官がFRB内部の徹底的な見直しを主張し、FRB議長の有力候補のケビン・ウォーシュ氏が「米財務省ーFRB協定」の必要性を唱えるためだ。
  • 日銀は7月30~31日に金融政策決定会合で据え置きを決定。植田総裁は、展望レポートで物価見通しが引き上げられたものの、それだけで政策を左右するものではないと釘を刺すなど、年内の追加利上げを示唆せず。むしろ、150円に近いドル円の水準をめぐり、「見通しの前提としている水準から大きくずれているわけではない。物価の見通しに大きな影響が出るとは、今のところ見ていない」と、円安容認と受け止められる発言を行い、ドル円の一段高を招いた。8月8日に自民党の両院議員総会が開かれ、結果次第では政局に突入するリスクが控えるだけに、9月利上げを示唆するような内容は想定しづらい。とはいえ、利上げへのファイティング・ポーズがゆるめば、円一段安となるのは植田総裁会見で明白となった。日銀の主な意見で、年内利上げへの望みをつなぐのか、日銀の姿勢を試すこととなりそうだ。
  • 8月4日週の主な経済指標として、5日に中国7月財新製造業PMI、米7月ISM非製造業景気指数、6日に日本6月実質賃金、7日に中国7月貿易収支、米新規失業保険申請件数、米Q2労働生産性と単位労働コスト、8日に日本6月家計支出などを予定する。
  • その他、政治・中銀関連では、7月5日に日銀議事要旨の公表(6月開催分)、日本10年利付国債入札、米3年債入札、6日にクックFRB理事とボストン連議員総裁の発言、米10年債入札、7日に日本30年利付国債入札、イングランド銀行の政策発表、アトランタ連銀総裁の発言、8日に自民党の両院議員総会、日銀主な意見(7月開催分)、セントルイス連銀総裁の発言が控える。
  • ドル円のテクニカルは堅調を維持。ドル円は8月1日、3.63円もの大幅な変動を記録した。4月10日の3.79円に続き、年初来で4番目の大きさとなった。結果、7月28日週の上昇局面で突破した上値の抵抗線である200日移動平均線(149.53円)、2024年9月安値と2025年1月の半値押し(149.23円)、5月12日の高値(148.65円)、21日移動平均線(147.57円)全て下抜けして、NY時間を終えた。8月1日の急落で、RSIの割高の節目70から、叩き落された格好だ。週足のチャートで見ると、2月24日週の高値151.31円の抵抗線を抜けきれない現状を確認したとも言える。ただし、一目均衡表の三役好転は継続しており、RSIも中立水準の50.84まで低下しているため、ここから仕切り直しとなってもおかしくない。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は2024年9月安値と2025年1月の半値押し付近の149.30円、下値は50日移動平均線が近い145.75 円と見込む。 


【7月28日~8月1日のドル円レンジ: 147.29~150.92円】

ドル円の変動幅は7月28日週に3.63円と、その前の週の2.81円から拡大した。週足では、続落。前週比では0.25円の下落となった。年初来リターンは前週の6.1%安から6.3%安へ小幅に拡大した。米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、パウエルFRB議長が引き続き利下げに急がない姿勢を強調したほか、日銀金融政策決定会合後の会見で植田総裁が円安容認と受け止められる発言を行ったため、ドル円は一段高。米7月ADP全国雇用者数や米Q2実質GDP成長率・速報値、米新規失業保険申請件数や米7月PCE価格指数などもそろって市場予想を上回り、ドル高に拍車をかけた。しかし、米7月雇用統計が弱い内容だったほか、非農業部門就労者数(NFP)の過去2カ月分が未曽有の下方修正となったため、週末にドル売りに急旋回。トランプ大統領が米労働統計局局長の解任を発表したほか、クーグラーFRB理事が8月8日付けで辞任することになり、パウエルFRB議長のレームダックが進むなど、年内の米利下げ観測が強まったことも、ドル売りを後押しした。

28日にドル円は買い優勢。米国とEUが7月27日(現地時間)に関税協議で合意したほか、28~29日予定の米中閣僚協議で関税適用停止を再度90日間延長する見通しと報道もあって、米インフレ警戒後退に伴い、ドル円は東京時間から堅調にスタートした。147円半ばで上値の重さが感じられたが、一時146.81円まで本日安値を更新した後は、ロンドン時間入りとともにドル円は上値を目指す展開。両院議員懇談会で石破首相おろしを迎えるリスクが警戒されたほか、EUとのディールを受けたドル買いが後押しした。148円付近で上げ渋りを見せたが、NY時間に入ると148円台を回復しさらに上昇。ホワイトハウスが米・EUの関税合意に関するファクトシートを公表した後には、一時148.58円まで本日高値を付けた。

29日、ドル円は小動き。ドル円は東京時間に上昇しつつも、明日の7月FOMCを控え、上値も限定的だった。むしろ、日経平均の下落につれて一時148.16円まで本日安値を更新。NY時間に公表された米7月消費者信頼感指数が予想を上回ったものの、米6月求人件数が市場予想より弱く、以降は伸び悩んだ。米中閣僚協議で、関税適用期限の延長で合意と伝わったが、ベッセント財務長官が協議前に言及していた事情もあり、こちらへの反応も限定的だった。

30日、ドル円は買い優勢。東京時間に、日経新聞が日銀の25年度物価見通し上方修正と利上げ見送る公算について報じたものの、147円後半から148円前半で小動きを続けた。カムチャッカ半島大規模地震を受け、太平洋側を中心に津波警報が発動されると、日経平均の下落もあって一時147.80円まで本日安値をつけた。ただ、その後の津波の影響は限定的で、NY時間にはドル買いが強まった。米7月ADP全国雇用者数や米Q2実質GDP成長率・速報値が市場予想を上回り、ドル円は4月2日以来の149円乗せ。FOMCでは予想通り政策金利を据え置いたほか、パウエルFRB議長が利下げに急がない姿勢を維持すると、一時149.54円まで上値を広げた。

31日、ドル円は小動きを経て一段高。東京時間は、前日のFOMCを受けたドル買いの反動もあって、売りが入った。日銀の金融政策決定会合後の展望レポートで物価見通しが引き上げられると、特に2025年度が前回より0.5ポイントも引き上げられたこともあって、一時148.59円まで本日安値を更新。しかし、植田総裁会見で、足元のドル円150円近い水準について、展望レポートに反映済みで「物価の見通しに直ちに大きな影響があるとはみていない」と明言した結果、これが円安容認と受け止められ、糸が切れた凧状態に。ロンドン時間には3月28日以来の150円を突破し、NY時間には米新規失業保険申請件数や米7月PCE価格指数が市場予想を上回ったこともあり、買いの流れが止まらず、NY引けまで一時150.84円まで駆け上がった。

1日、ドル円はNY時間に急落。東京時間こそ、前日の植田総裁発言と堅調な米指標の流れが続き、一時150.92円と3月28日以来の151円乗せに肉薄した。しかし、同水準から上げ渋るなか、NY時間には米7月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が市場予想を下回っただけでなく、過去2カ月分がまさかの25.8万人の下方修正となった激震を受けて、急落を開始。たった30分で2円も大幅な落ち込みを見せた上、米7月ISM製造業景気指数も市場予想より弱く、米利下げ期待の強まりに伴うドル売りが広がった。引け前には、トランプ大統領が米労働統計局局長の解任に言及し(実際に解任)、かつクーグラーFRB理事の8月8日付けの辞任発表もあって、ドル売りに拍車が掛かり、引け際に一時147.29円まで週の安値をつけた。

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