Weekly Report(7/14)「ドル円、トランプ関税と米6月CPIで148円乗せが視野に」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は7月7日週に3.30円と、その前の週の2.55円から拡大した。週足では、上昇。前週比では2.93円の上昇となった。年初来リターンは前週の8.1%安から6.3%安へ縮小した。トランプ大統領が日韓を始め、相互関税に代わる新たな関税を割り当て8月1日から発動する方針を表明するなか、米国でのインフレ圧力の高まりが警戒され、米金利が上昇しドル買いが広がった。
  • トランプ大統領は7月7日から12日まで、日本を皮切りに25カ国・地域に対し、相互関税に代わる新たな関税率を相次いで発表した。これらの国・地域に割り当てられた新関税率は31%。書簡では、大半の国に「閉ざされた市場を米国に開放し、関税や非関税措置、その他の貿易障壁につき撤廃する意思をもつならば、本書簡に記載した関税について再検討の可能性がある」と明記。従って、7月末までに合意に漕ぎつければ、8月1日から発動される新関税の適用は見送られる公算が大きい。ただし、適用されるようならば、インフレ圧力となり米金利上昇・ドル高を招きうる。
  • 一方で、トランプ政権がパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長に対し辞任圧力を強めている点は懸念材料。米連邦住宅金融局(FHFA)のパルト局長は7月2日、米上院銀行委員会で行った公聴会で、FRBの改修費用25億ドルをめぐり、虚偽の証言を行ったとして「(FRB議長の解任根拠となる)正当な理由に相当する」と主張し、米議会に調査を要請した。トランプ氏も、これに同調。ハセット国家経済会議(NEC)委員長も7月13日、状況次第でトランプ氏が解任権限を得る見通しと発言。同問題がドル売りを誘発するリスクにも、留意しておきたい。
  • 今週は、7月15日に米6月消費者物価指数(CPI)、17日に米6月小売売上高を予定する。クリーブランド連銀のナウキャストや、シカゴ連銀のコア小売売上高の予測によれば、どちらも前月比で5月の結果を上回る見通しだ。足元、トランプ関税でインフレ警戒が強まると同時に、年内の利下げ期待も後退するだけに、結果次第でドルを一段と押し上げうる。ただし、NY連銀の米6月インフレ期待は1年先が1月以来の水準に鈍化し、週間の小売売上高データや消費者信用残高・回転信用では、需要の低迷が確認できる。足元、財では関税の影響で値上げが警戒されるが、個人消費の7割を占めるサービスを中心に需要が落ち着くのであれば、物価高を抑制する余地がありそうだ。
  • 7月14日週の主な経済指標として、14日に中国6月貿易収支、5月鉱工業生産、15日に中国Q2GDPと6月小売売上高、中国6月鉱工業生産、米6月消費者物価指数(CPI)と米7月NY連銀製造業景気指数、16日に英6月CPI、米6月生産者物価指数を予定する。17日に日本6月貿易統計、豪6月失業率、英6月失業率、ユーロ圏6月消費者物価指数(HICP)、米新規失業保険申請件数と米6月小売売上高、米7月フィラデルフィア連銀製造業景気指数、米6月輸入物価指数、18日には日本6月全国CPI、米6月住宅着工件数、米7月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値を控える。
  • その他、政治・中銀関連では、15日にベイリー英中銀総裁の発言、ボウマンFRB副議長やバーFRB理事、リッチモンド連銀総裁、ボストン連銀総裁の発言を控える。16日にはバーFRB理事、やNY連銀総裁、クリーブランド連銀総裁、リッチモンド連銀総裁の発言のほか、ベージュブック(米地区連銀報告)の公表を予定する。17日にはウォラーFRB理事やクックFRB理事、クーグラーFRB理事、SF連銀総裁の発言、19日にベッセント財務長官とラトニック商務長官が大阪万博を訪問、20日に参議院選を控える。
  • ドル円のテクニカルは、強気へシフト。ドル円は、三角保ち合いや一目均衡表の雲を完全に上抜けたほか、24年9月安値と25年1月の61.8%押しの146.95円をローソク足の実体部で突破した。RSIも7月11日に62.81と1月半ば以来の水準へ上昇。全体的に、テクニカルは強気地合いへシフトしたと言える。
  • 参議院選の結果次第では、前週のレポートで指摘したように財政悪化への懸念に加え、与党の参院過半数割れでの政局不透明感から、円安に振れるリスクにも留意したい。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は6月23日の高値付近の148.70円、下値は一目均衡表の雲の上限と90日移動平均線が近い145.50円と見込む。 

【7月7~11日のドル円レンジ: 144.22~147.52円】

ドル円の変動幅は7月7日週に3.30円と、その前の週の2.55円から拡大した。週足では、上昇。前週比では2.93円の上昇となった。年初来リターンは前週の8.1%安から6.3%安へ縮小した。トランプ大統領が日韓を始め、相互関税に代わる新たな関税を割り当て8月1日から発動する方針を表明するなか、米国でのインフレ圧力の高まりが警戒され、米金利が上昇しドル買いが広がった。

7日にドル円は買い優勢。前週末の米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)や失業率などが堅調な結果となり、東京時間から上昇をたどった。トランプ氏が反米政策を講じるBRICS諸国に対し、10%関税を発動すると表明したことも、材料視。NY時間には、トランプ氏が日韓を始め14カ国に相互関税に代わる新たな関税率を発表した結果、一時146.24円まで本日高値を更新。上げ幅は2円以上に及んだ。

8日、ドル円は買いの流れが継続。東京時間からロンドン時間にかけてはドル円が下落する場面があったものの、NY時間には買いが再燃した。ドル円は一時146.98円まで本日高値を更新した。その後、トランプ氏が銅に50%の関税、さらに医薬品には最大1年半の猶予期間をもって、200%の関税を課す方針を表明し、ドル円は堅調な推移を保った。

9日、ドル円は買い先行後に上げ幅を縮小。ドル円は東京時間に6月23日以来となる147円を回復し、一時147.19円まで本日高値を更新した。ロンドン時間にブルームバーグが桜井元審議委員のインタビュー内容として、トランプ政権の通商政策を受け、賃金と物価の好循環が途切れる可能性が生じ、日銀の追加利上げは早くて来年3月と報道したが、影響は限定的だった。NY時間には、6月FOMC議事要旨が公表され、利下げに急がない姿勢を示す一方で、景気減速や労働市場の緩やかな悪化を受けた9月利下げの可能性も議論されたことが判明。ただ、トランプ政権による関税政策を巡る警戒感も根強く、ドル売りの動きは限られた。

10日、ドル円は売り先行後に買い戻し。東京時間に146円を割り込み、一時145.83円まで本日安値を更新した。しかし、NY時間には米新規失業保険申請件数が市場予想より良好で買い戻しを誘い、トランプ氏がブラジルに対し50%関税賦課を表明したこともあり、一時146.79円まで買い戻された。

11日、ドル円は上値を広げる展開。トランプ氏がカナダに35%の関税を課すと表明したほか、ほとんどの国・地域に一律15~20%の関税を発動する方針を示した結果、インフレ警戒と米利下げ先送り観測からドル買いの勢いが強まった。国際通貨基金(IMF)のデータをもとに、ブルームバーグが外貨準備においてQ1に円からスイスフランへ大規模なシフトが確認できたと報じたことも、材料視。NY時間には上値を広げ、一時147.52円と6月23日以来の高値をつけた。

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