Weekly Report(7/28)「ドル円、日米政策金利発表と米雇用統計などでトレンド見極め」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は7月21日週に2.81円と、その前の週の2.34円から拡大した。週足では、3週ぶりに反落。前週比では1.18円の下落となった。年初来リターンは前週の5.4%安から6.1%安へ拡大した。参議院選の結果で自民党と公明党の与党が市場予想ほど議席数を失わず、政権交代並びに日銀の利上げに否定的とされる高市前経済安全保障相の後任観測が後退し、ドル円では円が買い戻された。さらに、日米が関税交渉で合意し、米インフレ懸念が後退しドル円の下落を後押しし、一時145.85円まで週の安値をつけた。ブルームバーグが参院選後の結果を受け、年内にも追加利上げの可能性と報じるとドル売り・円買いが再燃したが、朝日新聞が7月の日銀金融政策決定会合では据え置きの公算と報じると、ドル円は上昇に転じた。笹川衆議院議員が参議院選の結果責任を問う両院議員総会を開く上で、必要な人数分の署名が集まったとの発言も、ドル円の買い戻しを誘ったようだ。
  • トランプ氏は7月22日、トゥルース・ソーシャル経由で「史上最大のディール」と称し、日米の関税協議合意を明らかにした。参議院選後、急転直下で合意に到達したことになる。今回の合意を受け、相互関税は4月2日発表時点で24%→15%が着地点となった。自動車・部品向け関税も25%→15%に引き下げられた。その他、コメのミニマムアクセス枠77万トンからの米国割合につき75%へ引き上げボーイング民間航空機100機購入、軍事装備品の取引額引き上げ、アラスカ産の液化天然ガス(LNG)共同開発に向けた合弁事業立ち上げ――などが盛り込まれた。一方で、防衛費の引き上げ、為替については含まれず。対米投資5,500億ドルも盛り込まれたが、ドル円は初期反応として、下落で反応。米インフレ警戒の後退が挙げられるが、対米投資5,500億ドルに反応しなかった理由は、利益配分につき米国が90%、日本が10%など、その枠組みについての双方の説明の違いを含め、不透明感が漂ったことが一因ではないか。
  • 米連邦公開市場委員会(FOMC)が7月29~30日に開かれる。足元、トランプ大統領が利下げ圧力を強めるが、米新規失業保険申請件数が足元で減少するなど、次回9月会合へ向け、明確に利下げの地ならしを行うとは考えづらい。日本や欧州連合(EU)との関税合意に至り、中国とは90日間の関税適用停止の延長する見通しながら、パウエルFRB議長は夏場のインフレ上振れに言及済みで、物価への関税の影響を見極めるのではないか。また、仮に7月FOMC後に米指標が弱含んでも、8月のジャクソン・ホール会合で利下げシグナルを送ることが可能。現段階では、関税を受けたインフレへの影響と雇用情勢を見極めつつ、9月利下げの柔軟性を確保する程度にとどめよう。
  • 日銀は7月30~31日に金融政策決定会合を開く。事前報道にあるように、今回も金利据え置きを決定する公算が大きい。四半期に一度公表される展望レポートで、食料品価格の高騰を受けて、2025年度物価見通しは前回5月時点の2.2%から上方修正されそうだ。内田副総裁は7月23日、日米関税合意を受け「大変大きな前進であり、関税政策を巡る不確実性の低下につながる」と発言しており、10月利上げへ向けゆるやかな一歩を踏み出してもおかしくない。
  • 7月28日週の主な経済指標として、29日に米7月雇用動態調査(JOLTS、求人件数含む)、米7月消費者信頼感指数、30日はユーロ圏と独のQ2GDP速報値、米7月ADP全国雇用者数、米Q2実質GDP速報値、31日に中国7月製造業PMI、米7月チャレンジャー人員削減予定数、米Q2雇用コスト指数、米6月個人消費支出・所得とPCE価格指数、米新規失業保険申請件数、8月1日に日本6月失業率と有効求人倍率、中国7月財新製造業PMI、ユーロ圏7月消費者物価指数(HICP)速報値、米7月雇用統計を予定する。
  • その他、政治・中銀関連では、7月28日に自民党の両院議員総会、7月28~29日にベッセント米財務長官、中国当局者と3回目の閣僚協議(スウェーデン)、7月29日に7月の月例経済報告、IMF世界経済見通し公表、7月30日にFOMCの政策金利発表とパウエルFRB議長の記者会見、7月31日に日銀の政策金利・展望レポート公表と植田総裁の記者会見、8月1日はトランプ大統領の関税一時停止期限終了、上乗せ関税発動を控える。
  • ドル円のテクニカルは堅調を維持。ドル円は、一目均衡表で引き続き三役好転を形成し、21日移動平均線を下抜ける場面はあったが回復したたけでなく、2024年9月安値と2025年1月の半値押し、146.95円を回復して週を終えた。下値では、一目均衡表の基準線がサポートとなった感もある。ただし、上値も限定的で、2024年12月3日の安値付近であり、5月12日の高値148.65円が再び抵抗線として機能した印象もある。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は2024年9月安値と2025年1月の半値押し付近の149.20円、下値は50日移動平均線と90日移動平均線が近い145.30円と見込む。 

【7月21~25日のドル円レンジ: 145.85~148.70円】

 

ドル円の変動幅は7月21日週に2.81円と、その前の週の2.34円から拡大した。週足では、3週ぶりに反落。前週比では1.18円の下落となった。年初来リターンは前週の5.4%安から6.1%安へ拡大した。参議院選の結果で自民党と公明党の与党が市場予想ほど議席数を失わず、政権交代並びに日銀の利上げに否定的とされる高市前経済安全保障相の後任観測が後退し、ドル円では円が買い戻された。さらに、日米が関税交渉で合意し、米インフレ懸念が後退しドル円の下落を後押しし、一時145.85円まで週の安値をつけた。ブルームバーグが参院選後の結果を受け、年内にも追加利上げの可能性と報じるとドル売り・円買いが再燃したが、朝日新聞が7月の日銀金融政策決定会合では据え置きの公算と報じると、ドル円は上昇に転じた。笹川衆議院議員が参議院選の結果責任を問う両院議員総会を開く上で、必要な人数分の署名が集まったとの発言も、ドル円の買い戻しを誘ったようだ。

21日にドル円は軟調。東京時間が休場のなか、参院選の結果を受け窓を開けて148円割れでスタートした。東京時間で148.67円まで買い戻され週高値をつけたが、ロンドン時間からは売り優勢に反転。NY時間には、共和党のアナ・ポーリーナ・ルナ下院議員がパウエルFRB議長を偽証罪で米司法省に刑事告訴を付託したとの報道もあって、一時147.08円まで本日安値をつけた。

22日、ドル円は売り優勢。東京時間に買い戻されたが147.95円まで本日高値を付けるにとどまりつつ、148円台に届かず、ロンドン時間では売りに傾いた。日銀は与党敗北でも利上げ路線堅持し、目標実現シナリオも維持するとのブルームバーグの報道が、ドル円の売りを後押し。ベッセント財務長官が来週スウェーデンのストックホルムで中国側と会談する予定と言及したため、米インフレ懸念の後退を招いた。また、同氏がFedは利下げすべきと発言したほか、FRBの見直しにも言及。トランプ氏が1%利下げを要求したことも重なり、一時146.31円まで本日安値を付けた。

23日、ドル円は乱高下を経て売りへ反転。東京時間に、トランプ氏が日米関税交渉において合意したと発表し、米インフレ懸念の後退につながって一時146.20円台へ下落した。その後、石破首相と歴代首相の麻生氏、菅氏、岸田氏が会談すると報じ石破氏の退陣観測が強まりドル買い・円売りに転じ、昼前には147.21円まで本日高値を更新。内田日銀副総裁が日米合意を受け、不確実性の後退につながると発言したが、ドル円の反応は限定的。むしろ、石破首相と岸田・菅・麻生前首相との会談終了を経て、石破続投が伝えられ、ドル円は再び売りへ転じ、一時146.11円まで本日安値を付けた。

24日、ドル円は売り先行後に買い戻し。東京時間には、石破首相の続投に伴う日銀の年内利上げ期待再燃を受け、21日移動平均線を抜けて一時145.85円まで週の安値を付けた。もっとも、米10年債利回りの上昇反転のほか、NY時間には米新規失業保険申請件数が予想外に堅調だったこともあり、ドル円は買い戻され、一時147.03円まで本日高値をつけた。

25日、ドル円は買い戻しが継続。東京時間にブルームバーグが年内の日銀追加利上げの可能性を報じ、一時146.81円まで本日安値を付けたが、朝日新聞が7月の日銀金融政策決定会合での据え置きを伝え、下落を打ち消す展開を迎え、一時147.94円まで本日高値を付けた。NY時間では、トランプ大統領が改修工事を行っているFRB本部を訪問後、「パウエル議長を解任する必要はない」と発言したことで、堅調なドル円の推移を支えた。

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