―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は8月11日週に2.31円と、その前の週の1.47円から拡大した。週足では、反落。前週比では0.60円の下落となった。年初来リターンは前週の6.1%安から6.4%安へ拡大した。米7月消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)、小売売上高など、注目の米指標は市場予想を上回る結果が優勢だったが、ドル円の上値は重く、むしろ14日には約3週間ぶりの安値をつけた。トランプ大統領が、FRB本部改修費をめぐりパウエルFRB議長を提訴する可能性を示唆したほか、新たに米労働統計局局長が米雇用統計の月次の発表について一時停止に言及。ベッセント財務長官も、9月の0.5%利下げについて述べたほか、日銀は利上げすべきとの見方を寄せ、ドル円を足元のレンジの下限に押し下げた。
- ベッセント財務長官は、植田日銀総裁と話したと明かした上で、日銀は「ビハインド・ザ・カーブに陥っている」ため、利上げを行いインフレを制御する必要があるとの見解を表明した。ベッセント氏と言えば、財務長官に就任してまもない2月から、カウンターパートではない植田総裁とオンライン会談を実施。その翌日に、大規模な黒字を蓄積している理由に、為替レートや金利抑制があると述べるなど、日本を念頭に入れた発言を行ってきた。また、トランプ政権で初めて公表した為替報告書でも、日銀は引き締め策の継続が対ドルでの円の正常化につながるとの見方を明記していた。このように再三にわたる日銀へのメッセージにもかかわらず、日本の実質金利は未だマイナス2.8%と世界で最も緩和的だ。後述するが、日銀には利上げを、FRBには利下げを求めたも同然で、対ドルでの円安是正を念頭に入れていたとしてもおかしくない。ベッセント発言を受け、10月利上げ織り込み度が34%へ急上昇したが、このまま日銀が利上げを行えば、中銀の独立性が揺らぐリスクをはらむ。
- ベッセント氏は、米連邦準備制度理事会(FRB)にも、9月の0.5%利下げを起点とした一連の利下げが可能との見解を寄せた。FF先物市場では、9月の利下げ織り込み度が100%に達し、8月22日のジャクソン・ホール会合でのパウエルFRB議長の講演では、利下げの地ならしが期待されている。しかし、米7月消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)、小売売上高は喫緊の利下げを必要とする結果とならず。パウエル氏は、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、夏場の物価上振れに言及していただけに、利下げへ急旋回するとは想定しづらい。FRB議長として最後のジャクソン・ホール会合での講演とあって、中銀の独立性を強調するだろう。一方で、利下げ期待を打ち消せば金融市場を混乱の渦に落としかねず、利下げの選択肢を残す絶妙なバランスが求められよう。
- 日銀が7月30~31日に開催した金融政策決定会合の「主な意見」で、「米国関税政策の影響の見極めには、少なくとも今後2~3カ月必要」と明記された。これを受け、10月29~30日開催の会合での利上げの可能性は、概ね消滅したといっても過言ではないだろう。ただ、「早ければ年内にも様子見モード解除」が可能となりうるとの文言も確認。年内の追加利上げとなれば、12月18~19日の日銀金融政策決定会合が視野に入る。
- 8月18日週の主な経済指標として、20日に日本7月貿易収支、英7月CPI、21日にユーロ圏と独の総合(製造業・非製造業含む)PMI速報値、米8月総合(製造業・非製造業含む)PMI速報値、米新規失業保険申請件数、米8月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が控える。米重要指標を予定せず、動意に乏しくなりそうだ。
- その他、政治・中銀関連では、8月18日に日本20年利付国債入札、ボウマンFRB副議長の発言、19日には自民党の総裁選挙管理委員会を初会合を開く方針、20日にNZ準備銀行の政策金利発表、中国最優遇貸出金利の発表、7月FOMC議事要旨の公表、ウォラーFRB理事とアトランタ連銀総裁の発言を予定する。また、21日からはジャクソン・ホール会合が開かれ、22日にパウエルFRB議長が「経済見通しとFRB枠組みの見直し」について講演を行う。
- 以上を踏まえ、今週の上値は2024年9月安値と2025年1月の半値押し付近と200日移動平均線が近い149.30円、下値は7月24日の安値145.85 円と見込む。
1.前週のドル円振り返り=トランプ政権関係者の発言で、米指標の強含みを相殺しレンジ相場続く
【8月11~15日のドル円レンジ: 146.21~148.52円】
ドル円の変動幅は8月11日週に2.31円と、その前の週の1.47円から拡大した。週足では、反落。前週比では0.60円の下落となった。年初来リターンは前週の6.1%安から6.4%安へ拡大した。米7月消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)、小売売上高など、注目の米指標は市場予想を上回る結果が優勢だったが、ドル円の上値は重く、むしろ14日には約3週間ぶりの安値をつけた。トランプ大統領が、FRB本部改修費をめぐりパウエルFRB議長を提訴する可能性を示唆したほか、新たに米労働統計局局長が米雇用統計の月次の発表について一時停止に言及。ベッセント財務長官も、9月の0.5%利下げについて述べたほか、日銀は利上げすべきとの見方を寄せ、ドル円を足元のレンジの下限に押し下げた。
11日のドル円は、東京市場が休場のなかで買い戻しが優勢。ロンドン時間に一時147.35円まで本日安値を更新したものの、その後は米7月CPIを控え、パウエルFRB議長が6月FOMC後の会見で、関税の影響で夏場にインフレ上振れについて警告するなか、断続的に買いが入り、NY引け前には一時148.25円まで上昇した。
12日、ドル円はNY時間に乱高下を経て下落。ドル円は米7月CPIの警戒感から買いの流れが続き、NY時間には一時148.52円まで週の高値をつけた。しかし、米7月CPIの前年比が市場予想以下だったほか、前月比が総合とコアそろって市場予想と一致し、警戒されたほどインフレが加速せず、売りに反転。米7月CPIコアの前年比が市場予想を上回ったため、148円割れでは買い戻しが入ったものの、トランプ大統領が、パウエルFRB議長に対し、FRB本部改修問題を背景に提訴する可能性を示唆すると、売りが再燃した。それでも下値の堅さを確認していたが、トランプ氏が米労働統計局局長に指名したアントニ氏が、米雇用統計の月次発表の一時停止に言及すると、一時147.58円まで本日安値をつけた。
13日、ドル円は買い戻しを経て下落。東京時間は、前日の米株高に加え、日経平均の上昇もあって、ドル円は一時147.97円まで本日高値を付けたが、その後は5年債入札が軟調だったものの、ドル円は下落に反転。NY時間入りにベッセント財務長官がFRBは9月0.5%の利下げの可能性と言及したほか、植田総裁と話し、日銀は自身の考えではビハインド・ザ・カーブにあるとして、利上げすべきとの見方を寄せたため売りを誘い、一時147.09円まで本日安値を更新した。
14日、ドル円は売り優勢。前日のベッセント発言を受けて、米利下げ観測の高まりだけでなく、日銀の年内利上げ期待が再燃し売りが入り、東京序盤から147円を割り込み、一時146.21円と約3週間ぶりの安値をつけた。ただし、50日移動平均線を割り込んだところから買い戻され、NY時間には米7月PPIが予想以上に上振れしたため、断続的に買いが入る展開。ベッセント氏が前日のFRBの9月の0.5%利下げ発言について「利下げを要請したわけではない」と述べたこともあり、NY終盤にかけ一時147.97円まで本日高値を更新した。もっとも、21日移動平均線を抜けると、上値は重くなった。
15日、ドル円は軟調。東京時間の序盤は、日本Q2実質GDP成長率・速報値が市場予想を上回ったため、年内利上げ観測が再燃し、ロンドン時間まで売りの流れが続いた。NY時間に発表された米7月小売売上高や米7月輸入物価指数が市場予想を上回ったが、ドル円への影響は限定的で、むしろ一時146.74円まで本日安値を更新。米8月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値が予想以下で戻りも鈍く、147円前半で週を終えた。
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