―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は9月1日週に2.38円と、その前の週の1.52円から拡大した。週足では、2週続伸。前週比では0.35円の上昇となった。年初来リターンは前週の6.5%安から6.3%安へ縮小した。9月入りに日仏の政局、英の財政問題が警戒されドル買いが優勢となったものの、米8月雇用統計を始め弱い米指標が上値を抑えた。
- 石破首相が辞任を表明した結果、総裁選が行われる見通しだ。気になるスケジュールは、実施方法によって変わり、ポイントは「党員投票」を行うか否か。党員投票を含む「フルスペック型」なら、総裁選を決定してから、選挙期間の12日以上を含め、1カ月程度要する。一方で、総裁の任期中の辞任など、緊急を要する場合などは「簡易型」が採用される場合も。この場合、「党員投票」を行わず、国会議員と47都道府県連の代表それぞれ3人のみが投票を行うため、総裁選の実施を決定してから2~3週間と比較的短期で決着がつく見通しだ。
- 次期総裁をめぐっては、2024年9月実施の前回総裁選の結果と世論調査結果から、高市前経済安保相と小泉農水相が有力視される。高市氏と言えば、2024年9月に「今、利上げはあほ」と発言し日銀に利上げをけん制した過去のほか、2025年度の基礎的財政収支の黒字化目標に苦言を呈し、戦略的な財政出動に言及していたため、日本の格下げにつながるリスクを警戒する声がある。一方で、小泉氏は石破路線を継承する見通しで、財政については、物価高に対する経済対策として、石破政権が参院選の公約で掲げた現金給付について、所得制限を設ける方向で進める可能性が考えられよう。いずれにしても円安リスクが警戒されるが、トランプ政権が一段の円安進行を容認するとは想定しづらい。
- 弱い米8月雇用統計を受け、9月の利下げ織り込み度は100%に達した。年内の利下げも、2回から3回に傾きつつある。パウエルFRB議長は8月22日、今年のジャクソン・ホール会合の講演で「リスク・バランスはシフトしている」と言及。米労働市場は移民の減少に伴う「奇妙な種類の均衡」にあり、下振れリスクが高まっていると述べた上で、リスク・バランスのシフトが「政策スタンスの変更を保証する可能性がある」と発言した。今回の米8月雇用統計は、まさに「奇妙な種類の均衡」が崩れ、米労働市場が変曲点に到達したように見える。ただし、0.5%利下げをめぐっては、米8月消費者物価指数(CPI)が高止まりとなる公算が大きく、現時点では不透明と言わざるを得ない。
- 9月8日週の主な経済指標として、8日に中国8月貿易収支、日本Q2実質GDP成長率・改定値、日本7月国際収支、9日に米雇用統計の年次ベンチマーク改定、10日に中国8月消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)、米8月PPI、11日に日本8月企業物価指数、米8月CPIと米新規失業保険申請件数、12日に米8月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値を予定する。
- その他、政治・中銀関連では、8日にNY連銀の8月消費者調査発表、バイル仏首相の内閣信任投票実施、中国全人代・常務委員会(12日まで)開催、9日に米3年債入札発表、10日に日本5年利付国債入札、米10年債入札、11日に欧州中央銀行(ECB)の政策金利発表が控える。
- ドル円のテクニカルは中立寄りを維持。ドル円は、約1カ月ぶりに149円を突破するタイミングで200日移動平均線を上抜けるも、ローソク足のヒゲにとどまり上値も重さを確認した。また、5月12日の高値148.85円もローソク足の実体部で抜けられず。とはいえ、下値も2024年9月安値と2025年1月の高値146.95円で抑えられた。50日移動平均線もローソク足のヒゲで下抜けるにとどまり、方向感がつかみづらい。9月5日に一目均衡表の雲に突入したが、今後雲の中に入ってしまうのかどうか、あるいは上下どちらかに抜けるのか見極めが必要となる。
- 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の150.50円、下値は一目均衡表の雲の下限が近い146.50円と見込む。
1.前週のドル円振り返り=約1カ月ぶりに149円乗せも、米8月雇用統計など弱い米指標が重石
【9月1~5日のドル円レンジ: 146.76~149.14円】
ドル円の変動幅は9月1日週に2.38円と、その前の週の1.52円から拡大した。週足では、2週続伸。前週比では0.35円の上昇となった。年初来リターンは前週の6.5%安から6.3%安へ縮小した。9月入りに日仏の政局、英の財政問題が警戒されドル買いが優勢となったものの、米8月雇用統計を始め弱い米指標が上値を抑えた。
1日のドル円は小動き。米国がレーバーデーで休場の中、東京時間に一時147.38円まで本日高値を更新したものの、長続きせず。とはいえ、ロンドン時間に入っても方向感に乏しく、一時146.76円と週の安値をつけたが、147円割れでは下値の堅さを確認した。
2日、ドル円は上値をトライする展開。氷見野副総裁の講演内容がトランプ政権の関税による経済下押しに軸足を置いた内容だったため、ドル円は買いが優勢となった。自民党の両院議員総会で石破首相が続投の方向を示すなか、148円を軽く突破し一時148.95円まで本日高値を更新。米8月ISM製造業景気指数が市場予想以下にとどまり、148円ちょうどまで下落する場面をみせ、下値は限定的だった。
3日、ドル円は買いの流れが継続。東京時間に10年債の入札結果が堅調だったほか、石破首相と植田総裁の会談が行われ、植田総裁が経済や物価、為替について協議したと明かしたものの、ドル円の買いの流れは止まらない。ロンドン時間にかけ、一時149.14円と約1カ月ぶりの高値をつけた。もっとも、NY時間には米7月雇用動態調査(JOLTS)のうち求人件数が市場予想以下にとどまり、ウォラーFRB理事のほか今年のFOMCで投票権を持つセントルイス連銀総裁など9月利下げに前向きな発言が相次いだため、148円を割り込み一時147.88円まで本日安値をつけた。
4日、ドル円は堅調。東京時間の序盤に一時147.79円まで本日安値を更新したが、その後は買い優勢の流れを維持した。NY時間に米8月ADP全国雇用者数や米新規失業保険申請件数が市場予想以下だったものの、売りは一時的。むしろ、米8月ISM非製造業景気指数が市場予想を上回ったため、一時148.78円まで本日高値をつけた。米司法省がトランプ大統領が解任したクックFRB理事に対する刑事捜査を開始したと報じられたが、為替市場は反応薄だった。
5日、ドル円は売り優勢。東京時間の序盤に日本7月実質賃金の前年比が予想外にプラスに転じたため、ドル円の売りにつながった。148円付近でのもみ合いを経て、NY時間には米8月雇用統計・NFPが市場予想を大きく下回ったため、急落。年内2回の利下げ予想が3回へシフトするなか、147円を割り込んで一時146.82円まで本日安値を更新したが、引き続き147円割れでは買い戻され大台を切り返して週を終えた。
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