【完全版】Weekly Report (2/6): 「ドル円はFOMCやECB、米雇用統計控え乱高下も―方向的にはダウンサイド」
安田 佐和子
この記事の著者
ジーフィット為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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Executive Summary

  • ドル円の変動幅は1月30~2月3日週、3円13銭と、前週の2円10銭程度から広げた。米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策発表やパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見内容がハト派的と判断され、ドル円は一時128.08円まで下落。しかし、米1月雇用統計が市場予想に反し非常に力強い内容で、ドル円が急激に買い戻され一時131.28円をつけた。
  • 今週、ドル円は買い優勢に。2月3日にドル円はテクニカル的な抵抗線を3つも上抜けた。また、一目均衡表で現れた三役逆転が消滅したため、買い方向が出てきたと言える。
  • さらに、ブラックアウト期間を経てFRB高官がタカ派的な発言を展開するシナリオにも注意したい。足元、FOMC後にパウエルFRB議長が年内利下げを否定したものの、未だFF先物市場では11月の利下げ転換を織り込んでおり、Fed高官が市場の利下げ期待の修正に動いてもおかしくない。
  • 何より、日銀正副総裁人事に注目。日経新聞は2月6日未明、政府・与党が黒田日銀総裁の後任人事をめぐり、次期雨宮副総裁に打診したと伝えた。雨宮副総裁が異次元緩和の制度設計を主導したとの見方から、ドル円は緩和修正期待が巻き戻され、一時132円半ばへ急騰。もっとも、日銀正副総裁人事は与党内の思惑もあって一筋縄ではいかない。また、仮に報道通りだったとしても雨宮氏自身が緩和路線を踏襲するかも不透明で、ドル円の乱高下をもたらしうる。

今週の為替相場の振り返り=米10年債利回りの上昇に反し、小動き

【1/30-2/3 のドル円レンジ:128.08~131.21円】
・ドル円は1月23~27日週、3円13銭の値動きを迎えた。前週の2円10銭程度と比較し、変動幅を拡大。
・2月1日、米連邦公開市場委員会(FOMC)が22年3月以降、8回目の利上げを決定した。しかし、利上げ幅は前回の0.5%pt→0.25%ptへ縮小。声明文では「利上げ継続」の文言が維持され、FOMC後のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見では「複数回の利上げを議論した」との発言を確認。しかし、パウエル氏は会見で景気と物価の減速に言及したほか、ディスインフレの初期段階にあると発言、インフレのピークアウトと物価減速の方向を示した(今週のトピックご参照)。
・これを受け、市場は「ハト派寄り」と判断し、米10年債利回りは一時3.391%と約2週間ぶりの水準に低下、ドル円はつれて2月2日に一時128.08円まで下落した。
・ところが、米1月雇用統計では、市場予想に反し非農業部門就労者数(NFP)が前月比51.7万人の増加と6カ月ぶりの力強い伸びを示したほか、失業率は3.4%と1969年5月以来の低水準を記録。米10年債利回りは3.5%台を超えて急伸し、ドル円もつれて一時131.21円まで上昇した。
・この結果を受け、FF先物市場では2月1日時点で3月20~21日FOMCでの利上げ打ち止め観測が払しょくされ、3月に続き5月も0.25%ptの利上げを行うとの見方に上方修正された。つまり、ターミナル・レート(利上げ最終地点)は4.75~5.0%から、2022年FOMC参加者の予想中央値である5.0~5.25%に引き上げられた格好。
・ただし、賃上げ圧力の後退を確認したため、FF先物市場では2月3日時点で引き続き11月の利下げ転換を予想、さらには12月の追加利下げを行うとの見方に傾斜している。

チャート:FF先物市場、ターミナル・レートを上方修正も11月利下げ転換見通しは変わらず

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ご参照:米1月雇用統計、黒人が主導し失業率は1969年以来の低水準

米1月雇用統計のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

・NFPの前月比増加幅は、6カ月ぶりの50万人乗せ
・過去2ヵ月分のNFPが上方修正
・失業率は1969年5月以来の低水準に並ぶ
・労働参加率は改善
・黒人や中卒以下など、失業率と労働参加率の改善を主導
・週当たり労働時間が改善
・就業率は2020年2月以来の高水準
・フルタイムの労働者が増加

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・平均時給、前年同月比の伸びが減速(インフレ抑制の観点ではポジティブも、購買力の観点でネガティブ)
・アジア系労働参加率は低下、白人とヒスパニック系の労働参加率は横ばい
・労働参加率が低下したアジア系の失業率は、大幅上昇
・ヒスパニック系と白人の失業率、労働参加率が横ばいだったにも関わらず上昇
・大卒以上の労働参加率は横ばいも、失業率は上昇

2022年3月から始まったFedによる積極的な利上げでも、力強い雇用の伸びを遂げ、失業率も1969年5月以来の低水準だった。バイデン大統領は7日に一般教書演説を控え、今回の米1月雇用統計は力強い経済をアピールする絶好の数字だったと言えよう。

なお、今回はベンチマーク及び季節調整の改定が行われた結果、2022年のNFPの増加幅は481万人増(改定前から31.1万人増)へ上方修正された。米国史上で最多を記録した2021年の727万人増に次ぐ伸びとなる。さらに今回、米労働統計局は家計調査の人口推計と産業分類システムも改定した。特に後者については、約10%の雇用が異なる産業に再分類されることになるといい、米労働統計局は事前に、今回の改定と産業分類の変更により、「毎年のベンチマーク・プロセスで通常より多くの過去データに影響を与える」と警告。今回のリリースにも明記され、実際に大幅な上方修正につながった。

米1月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米1月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比51.7万人増となり、市場予想の18.5万人増を上回った。前月の26.0万人増(22.3万人増から上方修正)も大幅に超え、6カ月ぶりの50万人乗せとなった。2022年平均の40.1万人増を超え労働市場の好調ぶりを映し出した。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比44.3万人増と市場予想の19.0万人増を上回った。前月の26.9万人増(22.0万人増から上方修正)を含め、25ヵ月連続で増加した。民間サービス業は39.7万人増、前月の22.6万人増(18.0万人増から下方修正)を上回った。

チャート:NFPは6カ月ぶりの50万人乗せ、失業率は3.4%へ低下

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サービス部門のセクター別動向は、11業種中で10業種が増加し前月の9業種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は娯楽・宿泊、2位は教育/健康、3位は専門サービスだった。一方で、情報は2カ月連続で減少した。
財生産業は前月比4.6万人増と前月の4.3万人増(修正値)を上回り、21ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が21ヵ月連続で増加したほか、建設は12ヵ月連続で増加。油価が米国の需要減退を嫌気し80ドル前後で推移しつつ、鉱業・伐採は5カ月連続で増加した。

チャート:セクター別、就労者の増減

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平均時給は前月比0.3%上昇の33.03ド ル(約4,290円)と、市場予想と一致した。前月の0.4%(0.3%から上方修正)に届かなかったものの、24ヵ月連続で上昇している。前年同月比は4.4%上昇し、市場予想の4.3%を上回った。前月の4.8%(4.9%から下方修正)以下となり、2021年8月以来の低水準に並んだ生産労働者・非管理職の前年同月比は5.1%上昇、前月の5.3%(上方修正)を下回り、2021年6月以来の5%割れが迫った。労働参加率の改善や景気減速に合わせ、賃上げ圧力が後退した可能性を示唆した。

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