Weekly Report(5/19)「ドル円、G7財務相・中央銀行総裁会議と日米協議で上値重い」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は5月12日週に3.73円と、その前の週の3.84円から小幅に縮小した。週足では、4週続伸。前週比では0.27円の上昇となった。年初来リターンは7.4%安へ縮小した。米中が閣僚会議を経て、90日間の関税115%引き下げで合意したため、リスクオンが吹き荒れドル円は相互関税発表直後の4月3日以来の149円乗せに接近した。しかし、その後は米国と通商協議を行う韓国が5月5日に為替について協議したと明かしたほか、米4月小売売上高や米4月生産者物価指数(PPI)など米指標が弱含み、ドル円の上げ幅を縮小。前週末の引け際に、格付け会社ムーディーズが米国の格付けを最高位から引き下げたことも、材料視された。
  • 格付け会社ムーディーズが5月16日の引け間際に、米国債の格付けを最高位の「Aaa」から1段階引き下げ「Aa1」に。発表直後、ドル円は下落、米10年債利回りは上昇で反応。これで三大格付け会社全てが最高位から引き下げたが、過去2回のドル円の反応はS&Pが格下げした2011年8月に日足、週足で下落、フィッチ・レーティングスが行った2023年8月は日足、週足で上昇した。もっとも、共に年間では上昇。当時は民主党政権で、特に2023年は利上げサイクルにあったため、年間でドル高・円安となったと想定される。足元、トランプ政権で関税措置を講じ、大型減税案の成立を目指すなかでは、ドル円の上昇を促すとは判断しづらい。
  • 今回の米国債の格下げは米連邦政府債務と財政赤字の急増が要因とされた。格下げにより、トランプ政権が成立を目指す大型減税案は歳出削減が十分でないリスクも重なり、悪い金利の上昇とそれに伴うドル安、加えて「米国債離れ」、「ドル離れ」への懸念を強めた格好だ。もっとも、3月対米証券投資を踏まえれば、中国が米国債保有高2位から3位に転落した一方、英国が2位に躍り出ている。また、中国のカストディアンと目されるベルギーとルクセンブルクは引き続き米国債を積み増す状況。BRICS諸国も、ドル売り・自国通貨買いが一服したこともあり、米国債保有高が改善、少なくとも「米国債離れ」は確認できていない。問題は相互関税を発表した4月の対米証券投資動向で、各国の対応が分かれうる。
  • 一方、今回の格下げにより、財政赤字が膨らむ日本の格付け見直しが入るとの懸念もある。参議院選を控え、消費税減税や現金給付が取り沙汰されることも、懸念につながっているのだろう。ただ、足元で三大格付け会社の日本の見通しは「安定的」。通常、格下げされる場合の見通しは「ネガティブ」であり、すぐに格下げとなるリスクは小さいと言えそうだ。
  • 今週は、5月20ー22日にG7財務相・中央銀行総裁会議が控えるほか、23日に赤沢経済再生相が訪米し3回目の日米通商協議が行われる。G7 財務相・中央銀行総裁会議について言えば、ドル円が149円に接近した翌日の13日に加藤財務相がベッセント財務長官と「引き続き為替について協議する」方針を明かした。加えて、23日にベッセント財務長官も出席する日米協議が行われるだけに、為替に関するヘッドラインが飛び出すリスクに備え、ドル円の上値が重くなってもおかしくない。
  • 5月19日週に発表となる主な経済指標として、19日中国4月小売売上高と鉱工業生産、ユーロ圏4月消費者物価指数(HICP)改定値、21日に英4月CPIを予定する。22日に日本3月機械受注、ユーロ圏と独の5月総合PMI速報値(製造業・サービス業含む)、米新規失業保険申請件数、米5月総合PMI速報値(製造業・サービス業含む)、米4月中古住宅販売件数が控える。23日には、日本4月全国CPI、米4月新築住宅販売件数を予定する。
  • その他、政治・中銀関連では19日にアトランタ連銀総裁、ジェファーソンFRB副議長、ダラス連銀総裁、NY連銀総裁、ミネアポリス連銀総裁の発言を予定する。20日に日銀債券市場参加者会合(銀行等グループ、証券等グループなど)、豪準備銀行の政策金利発表(0.25%の利下げ見通し)、アトランタ連銀総裁、ボストン連銀総裁、セントルイス連銀総裁の発言が控える。20ー22日には、G7財務相・中央銀行総裁会議の開催を挟む。21日には日銀債券市場参加者会合(バイサイドグループ)の他、クリーブランド連銀総裁、アトランタ連銀総裁の発言を予定する。22日には日本の5月分月例経済報告のほか、野口審議委員の発言、ECB理事会議事要旨の公表、NY連銀総裁の発言が控える。23日に3回目の日米通商協議を予定する。
  • ドル円のテクニカルは、弱含みへシフト。ドル円は5月12ー13日こそ一目均衡表の雲に突入したが、その後は再び雲の下限を下抜けてきた。何より、5月12日に一時148.65円と約1カ月ぶりの高値をつけたが、2024年12月3日の安値148.64円を抜けたところで押し返されただけでなく、2024年9月と2025年1月の61.8%押しにあたる146.95円も割り込んだ。90日移動平均線が200日移動平均線を下抜け、デッドクロスも形成。5月16日には50日移動平均線に戻りを阻まれた。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は2024年9月安値と1月高値の61.8%押しが近い147円ちょうど、下値は5月第1週の安値付近の142.30円と見込む。

【5月12~16日のドル円レンジ: 144.92~148.65円】

ドル円の変動幅は5月12日週に3.73円と、その前の週の3.84円から小幅に縮小した。週足では、4週続伸。前週比では0.27円の上昇となった。年初来リターンは7.4%安へ縮小した。米中が閣僚会議を経て、90日間の関税115%引き下げで合意したため、リスクオンが吹き荒れドル円は相互関税発表直後の4月3日以来の149円乗せに接近した。しかし、その後は米国と通商協議を行う韓国が5月5日に為替について協議したと明かしたほか、米4月小売売上高や米4月生産者物価指数(PPI)など米指標が弱含み、ドル円の上げ幅を縮小。前週末の引け際に、格付け会社ムーディーズが米国の格付けを最高位から引き下げたことも、材料視された。

12日、ドル円は前週末から窓を開けて急騰。5月10ー22日には、G7財務相・中央銀行総裁会議の開催を挟む。21日には日銀債券市場参加者会合(11日に開催された米中閣僚会議後の11日にベッセント財務長官が詳細を明言しなかったものの、米中は合意に達したと発言したため、前週末の引け値145.30円台から一気に駆け上がり146.10円台でスタートした。ロンドン時間には、ベッセント氏がグリア米通商(USTR)代表とスイスで行った会見で、米中は互いに90日間に及ぶ115%の関税引き下げで合意したと発表したため、147円、148円と大台を次々に突破。中国は一連の報復措置も一時停止や撤廃に動く方針とも示され、NY時間には一時148.65円と相互関税発表直後の4月3日以来の高値をつけた。

13日、ドル円は前日から一転し軟調。東京時間に加藤財務相がベッセント氏と、来週開催のG7財務相・中央銀行総裁会議で為替に関する協議を検討と発言し、147円後半での推移を中心に伸び悩んだ。日銀の主な意見が発表されたが、概ね反応薄。内田副総裁が参院財政金融委員会に出席し、見通し通りなら利上げ、ただし各国の通商政策の為替への影響は不確実性が高いとも述べ、明確にタカ派転換せず、こちらの影響も限定的だった。NY時間には、米4月消費者物価指数(CPI)がほぼ市場予想以下となったが、コアCPIの前年比が市場予想と一致するにとどまったため、一時148.47円まで本日高値を更新するも、その後はマイクロソフトが全従業員の3%を削減する方針と伝わったこともあり、147円前半へ上げ幅を縮小した。

14日、ドル円は売り優勢。日本4月企業物価指数は物価の上振れを示さず上昇で反応も、一時的だった。ロンドン時間に、ドル円は急落。韓国企画財政省の崔志栄・国際経済管理官と米財務省のカプロス次官補(国際金融担当)が5月5日、アジア開発銀行の年次総会中に会談し、為替について協議したと明かした。ニュースを受け、米国との通商協議で為替が議題になるとの懸念が再燃、韓国ウォンが導火線となって円にも買い戻し(ドル円は下落)に火が点き、146円割れの展開。12日にベッセント氏が米中の115%関税引き下げを発表してからの上げ幅を概ね打ち消し、一時145.61円まで本日安値を更新した。しかし、NY時間には。米当局者の話として「米国の関税交渉において、ドル安を考慮しない」とのニュースが伝わり、一時は147円台を回復する場面をみせた。

15日、ドル円は軟調地合いを継続。赤沢経済再生相が来週の訪米を調整し3回目の関税交渉に向かうと報じられ、為替協議への警戒感から売りの流れが継続した。NY時間には、市場予想を下回る米4月小売売上高と米4月生産者物価指数(PPI)を受けて、一時145.41円まで本日安値を更新。パウエルFRB議長が金融政策の見直しなどに言及したほか、供給ショックを受けインフレ再燃への警戒を示したが、影響は限定的だった。米中の貿易担当高官が韓国で開催中のアジア太平洋経済協力会議(APEC)貿易相会合に合わせ、閣僚級会合を行ったと報じられ、6月のトランプ大統領と習主席の誕生日を控えバースデー・サミットの思惑が浮上したが、為替への影響は限定的だった。

16日、ドル円はじり安展開。東京時間で発表された日本1-3月期実質GDP成長率・速報値は市場予想より弱いマイナス成長だったが、むしろ約1週間ぶりの145円割れを迎えた。中村審議委員が引き続き利上げに慎重な姿勢を打ち出しても反応薄。ロンドン時間には、一時144.92円と1週間ぶりの安値をつけた。NY時間からは下げ幅を縮小。米5月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値で1年先インフレ期待が7.3%と1981年以来の水準へ急伸した結果、146円へ戻す場面がみられつつ、引け際に格付け会社ムーディーズが米国の格付けを最高ランクから引き下げたため、145円後半で週を終えた。

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