Weekly Report(6/16)「ドル円、日米の金融政策発表と地政学的リスクで神経質な展開」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は6月9日週に2.68円と、その前の週の2.71円から小幅に縮小した。週足では、3週ぶり反落。前週比では0.75円の下落となった。年初来リターンは前週の7.9%安から8.4%へ拡大した。米中の貿易枠組み合意のニュースを受けて、ドル円はリスク選好度が回復し一時145.47円まで週の高値を更新したが、イスラエルによるイラン攻撃を受けて地政学的リスクへの警戒から142.79円まで週の安値を付ける展開。イランによる報復措置としてホルムズ海峡封鎖が警戒されたが、その後はドルが買い戻され、原油高は日本経済の打撃とみなされたこともあって、144円台を回復して終了した。
  • 日銀金融政策決定会合を6月16ー17日に予定し、無担保コールレート翌日物の誘導目標を0.5%で維持する公算。国債買い入れ減額については、ロイターを皮切りに日経新聞などが報じたように、中間評価を行うなか、減額ペースを四半期毎に4,000億円→2,000億円へ引き下げる見通しだ。市場は既に織り込み済みと考えられ、市場の注目は植田総裁による会見に。植田総裁が就任して以降、会合の会見を受けたドル円のリターンは、終値ベースの前日比で17回中、平均0.97円上昇してきた。今回もドル円上昇イベントとなるか。国債買い入れ減額ペース引き下げがハト派的と考慮されないよう、植田総裁がタカ派的なトーンを打ち出すシナリオにも、留意すべきだろう。
  • 米連邦公開市場委員会(FOMC)が6月17-18日に行われ、FF金利誘導見通しは4.25-4.5%で据え置きとなる公算。注目の経済・金利見通し(SEP)では、米4月PCE価格指数が前年同月比2.1%へ鈍化しただけに、インフレ見通しが下方修正されそうだ。FF金利見通しは、インフレ鈍化と労働市場を受け、6月を除き年内4回のFOMCを残すところ、年2回の利下げ予想を維持するのではないか。
  • イスラエルによるイランへの攻撃で、両国に戦火が広がっている。最悪のシナリオは全面戦争で、イランによるホルムズ海峡封鎖も指摘されるが、同国の輸出入の停止を通じ経済的な大打撃となる見通しで、その選択肢は限られるのではないか。トランプ米大統領は再三にわたり停戦を要請、6月14日はトランプ米大統領とプーチン露大統領が電話会談を行うなど、打開策を模索している。事態は流動的だが、1990年以降、産油国で地政学的リスクが発生したのは8回。そのうち、ドル円が1年後に上昇したのは3回、下落したのは5回だが、平均2.9%高だった。これは、2014年3月のロシアのクリミア併合、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻でのドル円の上昇率が大きく、押し上げたため。当時のFedの金融政策がタカ派寄りへシフトしていた流れから、ドル円の上昇につながった。従って、地政学的リスクもさることながら、Fedなど金融政策の影響が重視されうる。
  • 6月16日週の主な経済指標として、16日に米6月NY連銀製造業景況指数、17日にユーロ圏と独の6月ZEW景況感指数、米5月小売売上高、18日に日本5月機械受注、英5月CPI、米新規失業保険申請件数、20日に日本5月全国CPI、米6月フィラデルフィア連銀製造業景況指数を予定する。
  • その他、政治・中銀関連では16日にG7首脳会議と日米首脳会談(日本時間では17日未明)、17日に日銀金融政策決定会合後の政策発表と植田総裁会見、18日にFOMCの政策発表とパウエルFRB議長の会見、19日にはスイス国立銀行とイングランド銀行の政策発表とそれぞれ総裁の会見、20日には植田総裁の発言を予定する。
  • ドル円のテクニカルは、強弱ミックス。ドル円は21日移動平均線がある143.93円、一目均衡表の雲の下限がある144.08円を超えて週を終えたものの、50日移動平均線がある144.15円をクリアに抜けられなかった。また、21日移動平均が50日移動平均線を下回り、デッドクロスを形成。142-146円のレンジ相場が続く可能性を示す。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の147.00円、下値は引き続き前週の安値と5月第2週の安値が近い142.20円と見込む。

【6月9~13日のドル円レンジ: 142.79~145.47円】

ドル円の変動幅は6月9日週に2.68円と、その前の週の2.71円から小幅に縮小した。週足では、3週ぶり反落。前週比では0.75円の下落となった。年初来リターンは前週の7.9%安から8.4%へ拡大した。米中の貿易枠組み合意のニュースを受けて、ドル円はリスク選好度が回復し一時145.47円まで週の高値を更新したが、イスラエルによるイラン攻撃を受けて地政学的リスクへの警戒から142.79円まで週の安値を付ける展開。イランによる報復措置としてホルムズ海峡封鎖が警戒されたが、その後はドルが買い戻され、原油高は日本経済の打撃とみなされたこともあって、144円台を回復して終了した。

9日、ドル円は底堅い展開。東京序盤、前週末の米5月雇用統計が堅調だった流れを受け、一時144.95円まで本日高値を更新した。もっとも、米中閣僚協議をロンドンで開催することもあって、大台手前ではポジション調整が入り、ロンドン時間には、一時143.97円まで本日安値を更新。NY時間に発表されたNY連銀調査の米5月インフレ期待が前月から鈍化したこともあり、ドル円の戻りは限られた。

10日、ドル円は買い先行後に伸び悩み。東京時間の序盤、植田総裁が参院財政金融委員会で「基調的物価上昇率はまだ2%に少し距離がある、2%に近づく確度が高まれば引き続き利上げ」と従来の認識を繰り返したが、ハト派寄りなトーンが期待されたため、ドル買い・円売りが強まり、一時145.29円まで本日高値をつけた。その後は伸び悩み、中国株が突如急落すると、ドル円も売りへ反転。目立った材料は確認されなかったが、CCTV関連SNSが中国は大きく譲歩しないと受け止められるコメントを投稿したとして、米中閣僚協議への期待感が薄れたとの見方が聞かれ、ドル円は一時144.40円まで本日安値を付け、その後は144円台後半を中心に推移した。

11日、ドル円は買いを試した後に下落。東京時間の朝方、米中が貿易枠組みで合意したとのニュースが飛び込み、買いで反応した。ロンドン時間も買いの流れを継続、NY時間には、トランプ大統領もトゥルース・ソーシャルで米中貿易枠組み合意について投稿し、輸出規制緩和によりレアアースなどが供給されると伝え、ドル円は一時145.47円と約1週間半ぶりの水準へ上昇。米5月消費者物価指数(CPI)が前月比と前年同月比そろって市場予想を下回ると急落したが、続いてトランプ氏がトゥルース・ソーシャルにて、米企業による中国の市場アクセス拡大の可能性に触れたため、買いが再燃する場面も。ただ、買い戻しの流れは続かず、バンス副大統領やトランプ大統領が利下げ要請し、ラトニック商務長官が中国の関税を引き下げない方針を示したこともあって売りが再燃、一時144.33円まで本日安値をつけた。

12日、ドル円は売りの流れが継続。東京市場のスタートから一貫して売りが優勢となり、トランプ米大統領が2週間以内に貿易相手国に書簡を送り、一方的に関税率を設定する方針を表明したことが材料視された。イスラエルによるイラン攻撃の報告を受け米政府が中東地域に駐留する米政府職員や米兵家族を退避させたとのニュースにドル売りで反応したことも、ドル円を下押し。NY時間に米5月生産者物価指数や米新規失業保険申請件数が市場予想より弱い結果となると、一時143.19円まで本日安値を更新した。

13日、ドル円は売り優勢の後に買い戻し。ドル円は、東京序盤にイスラエルによるイラン攻撃開始の報道を受け、ドルが一段安を迎えドル円は一時142.79円まで週の安値を更新した。しかし、その後はドル買い戻しにつれる動きに。中東情勢緊迫化で原油高になれば、日本経済に打撃との認識もドル円の買い戻しを誘ったと考えられ、NY時間には一時144.48円まで本日高値を更新した。

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