Weekly Report(7/7)「ドル円、相互関税の期限切れをにらみつつレンジ相場継続か」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は6月30日週に2.55円と、その前の週の4.28円から縮小した。週足では、前週の1.43円下落に続き、前週比で0.17円の続落となった。年初来リターンは前週の8.0%安から8.1%安へ拡大した。週初は、デギンドスECB副総裁がユーロドルについて1.20ドルまで上昇余地があると述べたため、ドル売りが優勢となった。しかし、米6月雇用統計が予想外に堅調で、ドルが下げ幅を縮小した。7月9日に期限切れを迎える相互関税をめぐり、トランプ大統領が延長せず、合意に到達していない国に対し10~12カ国から順に関税率を通達すると述べたが、影響は限定的だった。
  • 米6月ADP全国雇用者数が予想外に減少した結果、米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が前月比14.7万人増と市場予想を上回り、失業率も市場予想に反し4.1%と低下したため、ドル買いで反応した。しかし、NFPは政府が押し上げており、政府を除いた民間就労者数前月比7.4万人増と、2024年11月からの増加トレンドで最小の伸びだった。その他、女性の労働参加率の低下や、黒人の失業率の急伸など強弱ミックスで、年内利下げ期待は3回から2回へ巻き戻された程度だ。
  • トランプ政権は、7月9日に相互関税の猶予期限切れを控え、貿易協定で合意に達していない国・地域に対し、関税率を通知していく方針だ。足元、トランプ氏は日本に対し30-35%の関税を課す方針を示唆しているが、一方で発動時期は8月1日とする見通しに言及。日本は参議院選を7月20日に控え、ベッセント財務長官は制約を受けており合意が困難と言及。逆に言えば参院選後に合意に漕ぎつければ、高関税率を回避できそうだが、不確実性が残る。
  • 参議院選では、各党が給付金や消費税減税など、財政拡張型の公約を展開する。政府債務残高がGDP比で236%という状況では、金利上昇・ドル円の上昇(円売り)で反応するリスクに留意すべきだろう。ただし、円安加速局面では、日銀が追加利上げを余儀なくされる場合もありそうだ。
  • 7月7日週の主な経済指標として、7日に日本5月実質賃金(毎月勤労統計調査)、9日に中国6月CPIと生産者物価指数(PPI)、10日に日本6月国内企業物価指数(輸入物価指数)、米新規失業保険申請件数を予定する。
  •  その他、政治・中銀関連では8日に豪準備銀行(RBA)の政策金利発表、9日にNZ準備銀行(RBNZ)の政策金利発表、トランプ大統領が決定した相互関税猶予の期限切れ、6月FOMC議事要旨公表、日銀支店長会議とさくらレポート公表、日本20年利付国債入札、サンフランシスコ連銀総裁の発言、セントルイス連銀総裁の発言を予定する。
  • ドル円のテクニカルは、強気寄り。ドル円は、米6月雇用統計後の急伸を受け、三角保ち合いを突破した。一目均衡表の雲に再び突入したほか、50日移動平均線や一目均衡表の転換線も完全に超えて週を終えた。また、21日移動平均線を2日連続で一時的ながら上抜け。ただし、一目均衡表の基準線で上値を抑えられており、RSIでは14日移動平均線が上回りデッドクロスを形成したままで、完全に上方向へシフトしたとは言い難い。
  • 以上を踏まえ、今週の上値はボリンジャーバンドの2σ付近の146.20円、下値は5月前半以降の一旦の下値の目途となる142.50円と見込む。

【6月23~27日のドル円レンジ: 143.75~148.03円】

ドル円の変動幅は6月23日週に4.28円と、その前の週の2.57円から拡大した。週足では、反落。前週比では1.43円の下落となった。年初来リターンは前週の7.1%安から8.0%安へ拡大した。米軍が6月21日にイランを空爆した結果、急速に「有事のドル買い」が発生したが、ボウマンFRB理事が7月利下げの可能性に言及し、ドル買いは一時的。トランプ大統領が23日夜(現地時間)にイスラエルとイランの停戦合意を発表したことも重なり、米利下げ期待をにらみドル売りが優勢となった。

23日にドル円は急伸を経て、いって来い。トランプ大統領が21日、米軍によるイラン核施設を行ったと発表したため、為替市場は大きく窓を開け146円後半でオープンし、「有事のドル買い」と原油高を受けた貿易赤字拡大に伴う円先安観から上値を切り上げていった。イランがホルムズ海峡を封鎖するリスクも懸念され、ロンドン時間には147円、148円も突破し、一時148.03円と約1カ月ぶりの高値を付ける展開。しかし、NY時間に入り上げ幅を打ち消しへ舵を切った。ボウマンFRB理事がウォラーFRB理事に続き、7月利下げの可能性に言及したことで、売りに拍車が掛かり、NY引けにかけては146.01円まで本日安値を更新。早朝に開けた窓を完全に埋めた。

24日、ドル円は下落。トランプ氏が現地時間の23日夜にイスラエルとイランが停戦合意したと発表し、「有事のドル買い」のポジションが巻き戻されると共に、原油安もあって、円の買い戻しで反応した。その後、停戦合意が発表されながらもイスラエルとイランの間でミサイル発射を確認しトランプ氏が激怒する場面もあったが、ドル円は下落の一途をたどり、ロンドン時間には145円割れ。145円でもみ合いを経て、NY時間には米6月消費者信頼感指数が市場予想を大幅に上回る低下を迎え、一時144.52円まで本日安値を更新。パウエルFRB議長が議会証言で関税によるインフレ警戒を維持しつつも、ウォラーFRB理事などの7月利下げの可能性をめぐる発言を否定せず、その後は145円を戻さずに推移した。

25日、ドル円は買い戻し。ドル円は東京時間の序盤こそ、日本5月企業向けサービス物価指数の発表、6月日銀金融政策決定会合の主な意見の公表、田村審議委員の講演を受けて、144円後半で推移した。しかし、田村審議委員が会見で基調的インフレ率が2%に達したとは言い切れないと発言すると、買い戻される展開。ロンドン時間からNY時間に入っても買いの流れが続き、一時145.95円まで本日高値を更新した。もっとも、米5月新築住宅販売件数が市場予想を大きく下回ったほか、パウエルFRB議長が「FF先物市場の動きは利下げを考慮する余地を与える」と発言したこともあって、145円前半まで上げ幅を縮小した。

26日、ドル円は売り優勢。東京時間で5月企業向けサービス価格指数が発表されたが、むしろトランプ大統領が早ければ夏にもパウエルFRB議長の後任を指名すると報じたことが影響したのか、売りが入った。ロンドン時間には、一時143.75円まで週の安値をつけた。NY時間には米新規失業保険申請件数が市場予想より増加せず、144円前半を中心とした推移に収れんした。

27日、ドル円はもみ合い。東京時間に6月東京都区部CPIが発表され市場予想以下でも、影響は限定的。ラトニック商務長官が26日に中国と5月の協議で合意した内容を確認したと発言したほか、共和党上下院指導部が大型減税法案「ひとつの大きく美しい法案」をめぐり、「報復税」とされる内国歳入法899条を撤回する保身と伝わったものの、144円半ばを上下する推移が続いた。NY時間に米5月個人消費と個人所得が予想外にマイナスとなったものの、コアPCEが市場予想を上回ったため144.30円台へゆるむ程度となった。ベッセント財務長官がFOXビジネスニュースのインタビューで相互関税の延長に言及すると、一時144.95円まで本日高値を更新したが、トランプ大統領が会見で一部の国は高い関税を払う必要があると述べたため、伸び悩んだ。

【6月30~7月4日のドル円レンジ: 142.68~145.24円】

ドル円の変動幅は6月30日週に2.55円と、その前の週の4.28円から縮小した。週足では、前週の1.43円下落に続き、前週比で0.17円の続落となった。年初来リターンは前週の8.0%安から8.1%安へ拡大した。週初は、デギンドスECB副総裁がユーロドルについて1.20ドルまで上昇余地があると述べたため、ドル売りが優勢となった。しかし、米6月雇用統計が予想外に堅調で、ドルが下げ幅を縮小した。7月9日に期限切れを迎える相互関税をめぐり、トランプ大統領が延長せず、合意に到達していない国に対し10~12カ国から順に関税率を通達すると述べたが、影響は限定的だった。

30日にドル円は軟調。トランプ大統領の交渉打ち切り宣言から2日後にあたる6月29日(現地時間)、カナダがデジタルサービス税の撤回を発表したが、ドル円は下落してスタートした。ロンドン時間には、一時143.78円まで本日安値を更新。トランプ大統領が日本の自動車関税について不満を漏らしたが影響は限定的で、NY時間に買い戻されつつ限定的にとどまった。

1日、ドル円は下落。東京時間は買い戻される場面もあったが、日本の10年債入札が堅調でドル円に売りが入った。ロンドン時間にデギンドスECB副総裁がユーロドルは1.20ドルまで上昇余地があると発言するとドル売りが広がり、約2週間半ぶりに143円台を割り込み一時142.68円まで下落。しかし、NY時間には買い戻され、発表された米5月雇用動態調査(JOLTS)の求人件数や米6月ISM製造業景気指数や市場予想を上回り、143円後半まで切り返した。植田総裁やパウエルFRB議長がECB年次フォーラムに出席したが、発言内容は新味に乏しく影響は限定的だった。

2日、ドル円は売り先行後に買い戻し。ドル円は東京時間こそ材料薄で143円半ばでの推移を続けたが、ロンドン時間から足元のドル安からの調整で買い戻されていった。NY時間には、米6月ADP全国雇用者数が予想外に減少に転じると、一時143.32円まで本日安値を更新。しかし、米ADP全国雇用者数と雇用統計の非農業部門就労者数に含まれる民間就労者数の乖離幅が大きい事実が意識され、買い戻された。

3日、ドル円は買い戻しが継続。東京時間で高田審議委員が講演したが、米6月雇用統計を前に為替市場は様子見ムードが続いた。NY時間に米6月雇用統計が発表されると、NFPや失業率が市場予想より強い内容で、ドル円は一気に145円を突破し一時145.24円まで週の高値をつけた。米新規失業保険申請件数も前週比で減少したことも、材料視。独立記念日の休場を控え、米株や米債の市場が短縮取引のなか、米6月ISM非製造業景気指数も市場予想を上回ったため、その後は145円を前後した推移に終始した。

4日、ドル円は小動き。ドル円は米6月雇用統計で強まったドル買いの流れの反動で、売りが優勢となった。ロンドン時間には、一時144.18円まで本日安値を更新。ただし、米国が独立記念日の休場とあって、動意に乏しい。トランプ大統領が貿易協定に達していない国に対し、10~12カ国から書簡で関税率を通知すると発言したが、影響は限定的だった。

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