―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は6月2日週に2.71円と、その前の週の4.18円から縮小した。週足では、続伸。前週比では0.6円の上昇となった。年初来リターンは前週の8.4%安から7.0%安へ縮小した。日銀が国債買い入れ減額ペースを引き下げると報じられたほか、日本4月実質賃金が4カ月連続でマイナスとなり、円売り材料が並ぶなか、6月5日に米中首脳が電話会談を実施し、ドル買い・円売りが強まった。さらに翌6日に米5月雇用統計が発表され、詳細を見ると弱含みも非農業部門就労者数や平均時給を受け近い将来の利下げはないとの判断から、ドルは一段高。ナバロ貿易・製造業担当上級顧問が米中首脳との電話会談で合意された米中閣僚協議が9日にも行われると発言すると、約1週間ぶりに145円台を回復し、144円後半で週を終えた。
- 米中首脳は6月5日、電話会談を行った。トランプ大統領は翌6日に中国がレアアースの輸出再開で合意したと明かし、9日には早速、米中閣僚会議が再開される見通しとなり、融和ムードが立ち込めたように見える。ただし、トランプ政権は対中包囲網を着々と構築しつつある。バイデン前政権では「Small Yard High Fence(SYHF)=狭い庭を高い塀で囲む」政策が講じられたが、ベッセント財務長官が明言するように、供給網における米国と世界の中国依存の低下を目指す。米中閣僚会議を控えるが、両者の交渉は一筋縄でいきそうもない。
- トランプ政権で初めてリリースされた為替報告書では、①日銀の金融政策に対し「円安・ドル高を正常化させるとともに、望ましい二国間貿易の構造的なリバランスにもつながる」との見解を表明、②中国の「透明性の欠如」を批判、③貿易相手国・地域の為替政策の分析を今後強化する方針を表明すると共に、「不公正」な為替慣行に対し警告――などの内容が盛り込まれた。以上を踏まえれば、主要な貿易相手国の通貨安を容認するとは想定しづらい。米国は二国間協議で、トランプ1期目のように為替報告書をレバレッジとして扱うのではないか。
- 米5月雇用統計は堅調な結果と受け止められ、ドル円の上昇を誘った。もっとも、失業率は4.244%と4カ月連続で上昇。季節要因として、夏場は教員のリストラなどを踏まえ、失業率が上昇しやすい。既に米新規失業保険申請件数は利下げサイクルにあった2024年10月以来の水準へ増加し、継続受給者数も2021年11月以来の190人万人乗せがつづくだけに、市場が再び労働市場の減速に焦点を当てる可能性は否定できないだろう。
- 米5月消費者物価指数(CPI)が6月11日に予定し、CPIが上振れするとの見方が流れている。市場予想ではCPIが同2.5%、コアCPIは同2.9%と、加速が見込まれる状況だ。この通りの結果となれば、ドル円は上昇で反応しそうだ。一方で、クリーブランド連銀のナウキャストをみると、米5月CPIは前年同月比で2.4%(前月:2.3%)、コアCPIは2.8%(前月:2.8%)と予測されている。
- 6月9日週の主な経済指標として、9日に中国5月消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)、11日に日本5月企業物価指数、米5月CPI、12日に米5月PPIと米新規失業保険申請件数を予定する。その他、政治・中銀関連では9日に米中閣僚協議がロンドンで開催されるほか、10日に米3年債入札、11日に日本月例報告、米10年債入札、米30年債入札、14日にトランプ大統領の79歳の誕生日と陸軍創設250周年を記念した大規模軍事パレード開催、15日はG7首脳会議(カナダ、17日まで)と習金平主席の誕生日が控える。
- ドル円のテクニカルは、中立寄りへシフト。ドル円は21日移動平均線が50日移動平均線を上回りゴールデン・クロスが形成されたほか、6月6日に21日移動平均線と50日移動平均線を明確に上抜けて週を終えた。米中閣僚協議や米5月CPIの結果次第では、短期的に買い戻しが継続しそうだ。
- 以上踏まえ、今週の上値は5月14日高値付近の146.70円、下値は引き続き前週の安値と5月第2週の安値が近い142.20円と見込む。
1.先週のドル円振り返り=米中首脳の電話会談、米5月雇用統計でドル円は約1週間ぶりに145円乗せ
【6月2~6日のドル円レンジ: 142.38~145.09円】
ドル円の変動幅は6月2日週に2.71円と、その前の週の4.18円から縮小した。週足では、続伸。前週比では0.6円の上昇となった。年初来リターンは前週の8.4%安から7.0%安へ縮小した。日銀が国債買い入れ減額ペースを引き下げると報じられたほか、日本4月実質賃金が4カ月連続でマイナスとなり、円売り材料が並ぶなか、6月5日に米中首脳が電話会談を実施し、ドル買い・円売りが強まった。さらに翌6日に米5月雇用統計が発表され、詳細を見ると弱含みも非農業部門就労者数や平均時給を受け近い将来の利下げはないとの判断から、ドルは一段高。ナバロ貿易・製造業担当上級顧問が米中首脳との電話会談で合意された米中閣僚協議が9日にも行われると発言すると、約1週間ぶりに145円台を回復し、144円後半で週を終えた。
2日、ドル円は売り優勢。トランプ大統領が中国に対し、5月の米中合意を順守していないと批判した結果、中国商務省は声明で、米国は「虚偽の主張をし、中国が合意に違反したと不合理に非難しているが、事実と大きく異なる」と反論した上で、「このような非難を断固拒否する」との見解を寄せた。米中対立の悪化が懸念され、東京時間から売りが広がる展開に。ウォラーFRB理事の年後半に利下げ可能との発言も後押しし、ロンドン時間に143円を割り込んだ。NY時間には、米5月ISM製造業景気指数が市場予想以下で3カ月連続の50割れとなり、ドル円は一時142.54円まで本日安値を更新した。
3日、ドル円は一転して買い戻し。東京時間に一時142.38円まで週安値をつけたが、植田総裁が参院財政金融委員会に出席し、「利下げ余地つくるために無理に利上げする考えはない」と発言したため、ドル円の買いを促した。日本10年債入札が小幅テールとなったことも、一時的にドル円を押し上げ。NY時間には、米4月求人件数が市場予想を上回ったため、一時144.12円まで本日高値を更新した。
4日、ドル円は上昇を経て売りへ反転。東京時間の序盤から仲値のタイミングで144円台に乗せ、上値をうかがう展開となり、一時144.40円まで本日高値をつけた。トランプ大統領が「習主席は好きだが、中国とのディールは非常に困難」とトゥルース・ソーシャルに投稿したため小緩む場面もみられたが、ロンドン時間に日銀が来年度の国債買い入れ減額ペースの減速を検討とロイターが報じると、買いが再燃したが144.20円台にとどまった。NY時間からは、売りへ反転。米5月ADP全国雇用者数や米5月ISM非製造業景況指数が市場予想を下回る50割れとなったため、143円を割り込み一時142.60円まで本日安値を更新した。
5日、ドル円はNY時間に買い戻し。東京時間に一時142.53円まで本日安値を更新したが、日本4月実質賃金が4カ月連続でマイナスとなり、日銀の年内利上げ期待が一部で後退するなかでも下攻めできず、買い戻しが優勢となった。30年債入札が芳しくなかったことも、ドル買い・円売りを後押し。NY時間入りに欧州中央銀行(ECB)が予想通り利下げを行ったが、米新規失業保険申請件数が市場予想より弱く一旦はドル売り・円買いの動きをみせたものの、米中首脳が電話会談を行ったとの報道が出てくると、ドル円は急伸。中国外交部の声明、トランプ大統領によるトゥルース・ソーシャルやメルツ独首相との会談での質疑応答で米中閣僚協議が行われることが分かり、ドル円は一時143.98円まで本日高値をつけた。米財務省がトランプ政権初となる為替報告書をリリースしたが、為替への影響は限定的だった。
6日、ドル円は買い勢いが強まった。ドル円は米5月雇用統計を控え、小動き続けた。ブルームバーグが、日銀は国債買い入れ減額ペースを引き下げる方針との報道にも反応薄。NY時間に、米5月雇用統計発表されると、売り買いが交錯しつつ、ナバロ貿易・製造業担当上級顧問が6月9日もロンドンで米中閣僚会議が開催される見通しと発言したことから、買いが勢いを増した。ドル円は約1週間ぶりに145円に乗せ、一時145.09円まで週の高値を更新し、144円後半で週を終えた。
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