Weekly Report(1/19)「日米欧三極で売り材料三つ巴も、ドル円は日銀次第に」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は1月12日週に1.94円と、その前の週の2.07円から縮小した。前週比では、0.17円と3週続伸。年初来では0.9%高となる。1月9日に高市首相が通常国会召集に合わせ解散を発表するとの報道で週初は円売りが優勢。米12月消費者物価指数(CPI)や米11月新築住宅販売件数などを受け、一時159.45円と2024年7月以来の高値をつけた。もっとも、その後はベッセント米財務長官が「韓国ウォンの下落は行き過ぎ」との声明を公表し、ドル円の下落を後押し。日本に対しても、「為替レートの過度な変動は望ましくないことを指摘し、金融政策の健全な策定とコミュニケーションの必要性」を強調したため、ドル円は一時158円割れを迎えた。
  • 片山財務相の相次ぐ口先介入に加え、ベッセント米財務長官が円安是正に加勢したため、介入観測が強まっている。特にベッセント氏がXで投稿した声明内容にあった「過度な変動」は、日米財務相共同声明に介入を認める条件として盛り込まれたもの。米国側が介入に理解を寄せたと判断できる。一方で、金融政策の重要性についても指摘しているだけに、仮に近いうちに介入が実施されるなら、日銀の3月利上げが条件となりうる。
  • 日銀は1月22~23日に金融政策決定会合を予定する。ブルームバーグによれば、四半期に一度公表の展望レポートでは、少なくとも2026年度の成長見通しが上方修正される方向だ。また、円安の進行を受け、日銀が物価上振れや経済への影響に警戒感を高めており、利上げペースを引き上げる可能性も指摘されているという。1月会合では、3月利上げへ向け植田総裁が狼煙を上げるなら、片山財務相の「フリーハンド」に合わせ、金融政策の「柔軟性=flexibility」に言及する場合もありそうだ。
  • 衆院解散総選挙を控え、与野党が公約を打ち出し始めている。高市首相は、自民党は時限措置で食料品の消費税率ゼロを、新党「中道改革連合」を結成した公明党の斎藤代表、立憲民主党の野田代表も、「食料品の消費税率ゼロ」を盛り込む方針を表明済みだ。国民民主党は消費税5%へ引き下げなどを掲げる。以上を踏まえれば、海外勢が財政悪化とインフレ加速をにらみ、円売りを仕掛けるリスクもありそうだ。ただ、投機筋の円先物のポジションをみると、特に足の速いレバレッジ系のネット・ショートは2024年7月に介入が行われた水準近くまで積み上がっている。トランプ政権の政策など外部要因で一方向に円売りとなるとは言い難い。
  • トランプ大統領は、米国のグリーランド領有に反対する欧州8カ国に関税を発動する構えを打ち出した。もっとも、2025年の関税交渉を踏まえれば、最初に圧力をかけた後、交渉を通じ妥結や譲歩で決着してきた事実もある。リスクオフの展開でのドル円の下落は、限定的にとどまるのではないか。 2025年5月にはトランプ政権がEUに6月1日より関税50%を課すと発表も、結局5月23日のフォンデアライエン欧州委員長との電話会談で、7月9日に延期。その後も50%関税は発動されず、ひと悶着あって同年7月27日に貿易合意に至ったことが思い出される。今回は、世界経済フォーラム(ダボス会議)で、トランプ大統領と欧州各国首脳が対話する機会もあり、妥結の道は残されている。
  • ドル円のテクニカルは、非常に強い地合いから後退した。一目均衡表では三役好転を保ち、一目均衡表の転換線がサポートとして機能している。一方で、ローソク足の実体部は2025年10月6日、並びに20、21日の安値を結んだ高市総裁誕生後のトレンドラインを下抜け。週足ではダブルボトムを形成するが、ネックラインとなる2025年1月10日の158.88円を超えられず、週を終えた。RSI(14日)は、デッドクロスを形成しつつあり、強い地合い自体は維持しつつも方向感を探る局面に入っている。
  • 1月19日週の主な経済指標は、19日に日本11月機械受注と鉱工業生産、中国Q4GDPと12月小売売上高、鉱工業生産、ユーロ圏12月消費者物価指数・改定値、20日は英12月失業率、ユーロ圏と独の1月ZEW景況感指数、21日は英12月CPIが控える。22日は日本12月貿易収支、豪12月雇用統計、米Q3実質GDP改定値、米11月PCE価格指数、米新規失業保険申請件数、23日は日本12月全国CPI、ユーロ圏や独、米の総合PMI(製造業、サービス業含む)速報値、米1月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値を予定する。
  • その他、政府・中銀関連では、19日に高市首相による衆院解散についての方針説明、IMFの世界経済見通し、世界経済フォーラム(ダボス会議23日まで)開催、20日にEU財務相理事会、21日にラガルドECB総裁の発言、世界経済フォーラムでのトランプ大統領の演説が控える。22日にECB理事会議事要旨の発表、23日は通常国会召集に伴う解散の発表、日銀金融政策決定会合での政策発表と、植田総裁の会見を予定する。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の160.00円、下値は21日移動平均付近の157.00円と見込む。


【 1月12~16日のドル円レンジ:157.52~159.45円】

ドル円の変動幅は1月12日週に1.93円と、その前の週の2.07円から縮小した。前週比では、0.17円と3週続伸。年初来では0.9%高となる。1月9日に高市首相が通常国会召集に合わせ解散を発表するとの報道で週初は円売りが優勢。米12月消費者物価指数(CPI)や米11月新築住宅販売件数などを受け、一時159.45円と2024年7月以来の高値をつけた。もっとも、その後はベッセント米財務長官が「韓国ウォンの下落は行き過ぎ」との声明を公表し、ドル円の下落を後押し。日本に対しても、「為替レートの過度な変動は望ましくないことを指摘し、金融政策の健全な策定とコミュニケーションの必要性」を強調したため、ドル円は一時158円割れを迎えた。

12日のドル円は乱高下を経て上昇。東京時間の序盤、ドル円は高市首相が23日の通常国会召集で解散を宣言するとの報道に支えられ一時158.21円まで本日高値を更新した。しかし、直後にパウエルFRB議長が動画にて、トランプ政権から刑事訴追を警告されたと発表しドル円は急落、一時157.52円まで週の安値を更新。以降は東京市場が休場のなか158円を挟んだ動きを経て、NY時間には157円後半へ戻して終えた。

13日のドル円は、大幅上昇。祝日明けの東京市場は158円台へ切り返すなか、訪米中の片山財務相がベッセント米財務長官と会談し為替市場の動きを「非常に憂慮し、ベッセント氏も認識を共有した」と発言したため、一時157.90円まで本日安値を付けた。しかし、158円割れでは押し目を拾われ、いってこいを迎えるどころか上値を切り上げる展開に。城内経財相が「為替や金利は様々な要因で決まり、財政政策のみ取り出して一概に言えない」、「デフレに戻る可能性はないとまで言えないと判断している」などと述べるなか、159円を伺っていった。ロンドン時間で2回ほど158.70円台へゆるんだ後は、24年7月以来の159円を超えて上値を拡大。NY時間に発表された米12月CPIコアが市場予想以下でも、158.50円台の下落にとどまり、むしろ下値を拾われ、市場予想超えの米11月新築住宅販売件数や追加利下げに慎重なセントルイス連銀総裁の発言などを受け、一時159.19円まで切り上げた。

14日のドル円は、買い先行後に失速。東京時間序盤に一時159.45円と24年7月以来の高値をつけたが、その後は介入警戒感から上げ幅を縮小した。植田総裁が「今後も賃金・物価の穏やかな上昇のメカニズムは維持される」と述べ、追加利上げの可能性を示唆したほか、片山財務相が「あらゆる手段を排除せず適切に対応」と発言。三村財務官も「行き過ぎた動きにはあらゆる手段を排除しない」と述べ、ロンドン時間から159円を割り込んで急落した。NY時間の入りには、立憲民主党と公明党が新党結成で協議と報じられ、158円前半へ押された後は行ってこいを迎えつつ、市場予想超えの米11月小売売上高などには反応薄。むしろ、ベッセント米財務長官が韓国の具潤哲企画財政相と12日に会談した後にXに米財務省の声明として、「韓国ウォンの下落は行き過ぎ」との見解を表明した結果、ドル円を押し下げ158.09円まで本日安値を更新。戻りも限定的となった。

15日、ドル円は買い戻し。東京時間の序盤、再びベッセント米財務長官が12日の片山財務相との会談を経てXにて米財務省の声明を公表、「為替レートの過度な変動は望ましくないことを指摘し、金融政策の健全な策定とコミュニケーションの必要性」を強調したため、158.22円まで本日安値を更新した。ロンドン時間には、日銀が円安進行次第で利上げペースを速める可能性との報道もあって、軟調に推移。もっとも、その後は買い戻しに転じ、NY時間には米新規失業保険申請件数や米1月フィラデルフィア連銀製造業景気指数などが市場予想を上回ったため、一時158.88円まで本日高値を更新した。

16日、ドル円は売り優勢。東京時間の序盤に一時158.71円まで本日高値を更新したが、片山財務相があらためて、ファンダメンタルズを反映しない動きに断固たる措置を取る姿勢を改めて示すなか、158円を割り込んだ。ロンドン時間は158円付近での推移を続け、来週月曜にNY市場の休場を控え動意に乏しいかにみえた。しかし、NY時間にトランプ大統領がハセット国家経済会議(NEC)委員長に対し、FRB議長でなく現職に留まることを望むと発言したほか、グリーランド領有に反対する各国に関税を課すと言及すると、再び158円を割り込み、157.82円まで本日安値を更新。ただし、終値では大台へ戻した。

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